蚊は上下から挟んで叩け

 暫く森の中を歩いていると、何やら大きな羽音が近づいてくるようで。


「プーン」


 妙に不快感のある羽音、黒と白の縞模様の体。そして…吸血用の針。

地球上で最も多く人間を殺しているその生物の名は。


「蚊……ヒトスジシマカかな?」


 通常よりも数十倍大きい蚊だ。下手したら人間の頭ぐらいあるんじゃないか?


 巨大蚊は勢い良くこちらへと向かって来るが、対してこちらは杖を突き出す。

このゲームで魔法を放つには、杖と魔法の名称が記された魔導書が必要で、そしてそれを詠唱しなければならない。


「喰らえ!【アイスショット】!!」


 ぺしっ


「プーン」


「全然効かねーじゃん!」


 若干スピードが落ちたか、しかし殆どダメージが無い様に見えた。

というのも【アイスショット】は初期魔法であるため、そもそも威力が低い。そして氷属性魔法の「当て続けることでダメージに上昇補正がつく」という共通の性質のためか、他の魔法より威力が低く設定されている。つまり初弾のダメージがものすごくショボいのだ。


「プゥーン」


「うおおっ!?」


 辛うじて突進吸血攻撃(?)を避け、攻撃の策を練る。魔法は…連発できるほどのMPは無い、となれば、今ある武器はただ一つ。


「蚊ってのはな…叩いて潰すのがベターなんだよぉ!」


 再び加速しこちらに向かってくる蚊に対して、右腕を上に、左腕を下にし、口のような形の構えを取る。

腰は低く、接近した巨大蚊の針を体を右に捻って躱し…


 べちんっ!


 両手で思い切り蚊を叩き、今度は若干腹部を凹ませることに成功した。すかさず怯んだ蚊に再び杖を向けて。


「【アイスショット】!」


 そして。


 べちんっ!


 さらに凹み、腹部からダメージエフェクトが出る。


「【アイスショット】!」


 べちんっ!


「プゥゥゥン」


 巨大蚊の翅が弱々しい音を出す。


 スキル【アッドスペル】発動。


「【アイスショット】!」


 蚊は遂に翅の動きを止め、地に落ちた。


 そしてそれを踏み潰し戦闘終了。巨大蚊の大部分が消滅し、素材だけが残る。


「はぁ、はぁ、これ、大きさに比例してウザさも増してないか…?」


 戦ってみて分かったのは、これは初心者が初めてエンカウントするようなモンスターではないということと、しかしそのおかげでレベルが2も上がってLv:3になったということだ。


 一先ずその場に落ちた素材を回収する。大一筋縞蚊の吸血針、大一筋縞蚊の双翅……名前は強そうだけど見た目的には弱そうだな。折角苦労して倒したのに…と言ってもLv:5ぐらいになればすぐ倒せるようになるんだろうモンスターだ。素材はそんなに強くないんだろう。

とはいえ、レベルが上がったのでステータスポイントが10増えて、スキル【アッドスペル】のレベルも2になった。しかし威力とリキャストタイムを2倍にするというこの【アッドスペル】、氷魔法と相性が悪い。リキャストが2倍になると連続ヒットが途切れてしまうのだ。


 だが、レベルアップに伴い新しいスキルも獲得した。その名も【クイックスペル】。10秒間、魔法の消費MPとリキャストタイムを半減する。おお、これは強そうだ。なんてったって氷魔法との相性が最高だ。


 そしてステータスポイント10をAGIに振って、再び森を歩き出…そうとしたその時。


「やぁやぁ、現実リアルで採れなかったからってゲームで虫採りかい?」


 飛高 蝗ひだか こう、もとい「グラスホッパー」が眼前に現れ…


 ばきぃ


 反射で殴ってしまった。

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