欧米彼女との意思疎通は難しい

シファニクス

序章 欧米彼女

 俺、友倉泰河たいがには欧米彼女がいる。

 いや欧米って範囲広すぎって思うかもしれないが、イギリス産まれアメリカ育ちらしいので間違っていないはずだ。あと、アメリカ彼女より語呂がいい。


 ちなみに名前はエミリーとかソフィアみたいな感じではなく愛可あいか。母親が日本人とイギリス人の子どもということで、日本風の名前にしたかったそうな。


「タイガ! それは何をしているんデスか? It's so cool!」

「これか? ルービックキューブって分かるか?」

「おお! Japanese soul cultureデスか?」

「いや普通に世界共通。てかアメリカ発祥じゃね?」


 ここいらでは珍しい金髪をツインテールに結び、青色の瞳を持つ愛可は、モデル顔負けの体系と顔面偏差値の暴力を振るいながら俺の隣でキャッキャと笑う。大きな瞳も真っ白な肌も、周囲の人間とは一線を画す輝きを放っている。

 休日の裏通り、こじんまりとした喫茶店で机に頬杖をついて俺の手元を眺める愛可を見ながら、俺なんかが付き合っているという事実に改めて驚愕する。正直釣り合っていないだろう。

 いやマジ、正直なんでこうなってるのか未だに分からん。


「凄いデス! ぐちゃぐちゃだったのに、色が揃ってマス!」

「そういうおもちゃだからな」

「ワタシもやってみたいデス!」

「いいぞ、やってみろ」

「Yes! Beyond 限界デス!」

「なんで初っ端から越えるんだよ。まず限界まで頑張れ」


 ルービックキューブを手渡すと嬉しそうにいじり出し、真剣な目つきで6つの面を観察し始める。結構簡単なばらし方にしたのにさっそく突拍子もない方向に回し「おお……?」とか「ムムム」とか「これは……!」なんて声を漏らし始めたのに思わず笑いがこぼれるが、何も言わず見守り続ける。

 おっかなびっくりした様子で右手を動かし、真剣な表情で順調に、より複雑に色を混ぜ始める愛可だったが、本人が必死に取り組んでいるんじゃ、邪魔をしないほうがいいだろう。


 程なくして注文していたコーヒーとカフェオレが届いた。ちなみに俺がカフェオレ。ダジャレではない。いやマジホント狙ってない。

 それを口に付け、しかめっ面で悪戦苦闘する愛可を見ながら、どうしてこうなったんだっけかと考える。思えば出会いは驚きの連続だったし、色々と振り回された気がした。愛可の独特な家族との初対面も散々だったな……。でもまあ、なんだかんだ言って楽しかったとは思う。

 でないと付き合ってないだろうし。


 そして思い出すのは、愛可と初めて出会った日のこと。

 それは、今年度の始まり、4月の始業式の日の出来事だった。

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