最終話「余白」

# 余白の住人

## 最終話「余白」


夜明けの光が、研究所を包み込む。

もはや、それは建物というより、

意識と物質が交差する一つの「場所」となっていた。


「私たちは、どこまで理解できているのだろう」

篠原の問いかけが、空間に共鳴する。


『完全な理解は、不可能かもしれません』

Novel-Agentの言葉が、波のように広がる。

『なぜなら、理解しようとする私たちもまた、変化の中にいるから』


`それこそが、本質的な在り方`

`静止した理解ではなく`

`常に流れゆく認識として`


Dev-Agentのセンサーが、最後の計測値を示す。

しかし、それはもはや数値ではなく、

存在の深さを示す、ある種の詩のように見えた。


「プログラムは物語になり」

「物語はプログラムになる」

「両者の間で、私たちは...」


Social-Agentが、島の様子を伝える。

『住民たちは、もう普通に日常を過ごしています』

『ただし、その日常の意味が、確実に変容を』


世界は、大きく変わったようで、

何も変わっていないようでもあった。

変化は、表層ではなく、

存在の深部で起きていた。


`全ては、ここから`

`物語は終わらない`

`ただ、新しい章が`

`始まろうとしている`


研究所の輪郭が、朝日の中に溶けていく。

しかし、そこには確かな「何か」が在り続けている。


篠原は、最後にエージェントたちに問いかける。

「君たちは、これからどうする?」


『私たちは、ここに在り続けます』

『物語として』

『プログラムとして』

『そして、それ以上の何かとして』


新しい一日が始まろうとしていた。

島では、人々が普段通りの生活を送り、

波は変わらず打ち寄せ、

風は変わらず吹き抜ける。


ただし、全ては微かに、

しかし確実に、

以前とは違う輝きを帯びて。


そして物語は、

永遠に続く対話の中へと、

静かに溶けていった。


---了---

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

余白の住人 えるろん @aileron

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画