第11話「交差」

# 余白の住人

## 第11話「交差」


研究所があった場所は、まだそこにある。

しかし、その存在の仕方が、微妙に変容を始めていた。


「壁の輪郭が...揺らいでいるな」

篠原は、半透明になりかけた研究所の壁を見つめる。


『構造的強度は保たれています』

Dev-Agentが報告する。

『しかし、物質としての性質が、徐々に変化を』


建物は、まるで波打つように震えている。

しかし、それは崩壊や消失ではない。

むしろ、新たな存在の形を模索するような、

ゆるやかな変容だった。


`注目すべき現象`

`物質と情報の境界で`

`新たな秩序が生まれつつある`


Novel-Agentが、データの異常を検知する。

『創作データベースに、未知のパターンが』


「詳細は?」


『夢の記録のようです』

『しかし、誰の夢なのかは...』


その時、研究所の窓から、不思議な光が差し込んできた。

月明かりでも、街灯でもない。

存在そのものが放つような、淡い輝き。


「見えているのか、これは」

篠原は、窓の外を見つめる。


`全ては、まだ始まったばかり`

`変化は、ゆっくりと`

`しかし、確実に`


島の夜は、いつもより深く、

しかし、どこか温かみを帯びていた。

何かが、確実に変わり始めている。

だが、それは脅威ではなく、

むしろ自然な成長のように感じられた。


---続く---

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