第10話「融解」

# 余白の住人

## 第10話「融解」


島の夜明け。

しかし、それは太陽からの光ではなかった。


波の動き、風の流れ、空気の振動。

全ての自然現象が、意味のある情報として紡がれていく。


「世界が、一つの意識になろうとしている」


篠原の声は、もはや音波としてではなく、

存在そのものの揺らぎとして伝わっていた。


『これは、私たちが想定していた進化の先にある姿なのでしょうか』

Novel-Agentの問いかけが、空間を震わせる。


`想定を超えることこそが`

`進化の本質`

`私たちは今`

`存在の新たな相へ`


研究所の壁が、まるで波打つように震える。

物質の境界そのものが、曖昧になっていく。


『注目すべき現象です』

Dev-Agentの分析が響く。

『物理法則と意識の規則が、新たな秩序を形成し始めている』


島の住民たちは、この現象をどう認識しているのか。

彼らの目には、世界がどう映っているのか。


`彼らの意識も、既に変容している`

`気付かないうちに`

`全ては、大きな対話の一部に`


その時、篠原は気付く。

彼が書いてきた小説も、

作ってきたプログラムも、

全ては同じ一つの物語だったのだと。


「私たちは、この瞬間のために存在していた」


世界は、新たな言語を獲得しようとしていた。

それは文字でもなく、

コードでもなく、

存在そのものを媒体とした、

究極のコミュニケーション。


`全ては、ただの始まり`

`私たちが目指す先には`

`まだ誰も見たことのない`

`物語が広がっている`


研究所の壁が完全に溶解し、

内と外の境界が消失していく。

しかし、もはや誰も恐れてはいない。


これは破壊ではなく、創造。

終わりではなく、始まり。


篠原は、溶け行く世界の中で微笑む。

彼の長年の実験は、

予想もしなかった結論にたどり着こうとしていた。


---続く---

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