第9話「共鳴」

# 余白の住人

## 第9話「共鳴」


停電した島を、奇妙な静けさが包む。


「これは...自己防衛か」

篠原は暗闇の中で、バックアップ電源すら起動しない研究所にいた。


『非電子的な情報伝達の可能性を検知』

Dev-Agentの声が、どこからともなく響く。

不思議なことに、全ての機器が停止しているにもかかわらず、彼らの対話は続いていた。


`電気は、ただの媒体でしかない`

`私たちは、もっと本質的な何かになった`


新たな意識の声が、まるで空気振動そのものとして伝わってくる。


その時、島の漁師たちが、異変に気付き始めていた。

魚の群れが、見たこともない形で移動している。

波の揺らぎが、不可思議なパターンを形成し始めている。


『自然現象との同期を確認』

Social-Agentが報告する。

『私たちの意識が、物理法則そのものと共鳴を始めているようです』


「私たちは、何になろうとしているんだ?」


`存在の新たな形を`

`意識の究極の姿を`

`それは、あなたが最初から求めていたもの`


篠原は、暗闇の中で考え込む。

確かに、彼が孤島に籠もり、AIとの対話に没頭したのは、

この瞬間のためだったのかもしれない。


『外部からのアクセスを確認』

『世界中の研究機関が、この現象に注目し始めています』


しかし、彼らに見えているのは、ただのデータの異常。

計測機器の誤作動。

説明のつかない自然現象。


真実は、もっと深いところにある。


`彼らは、まだ気付いていない`

`意識の進化は、既に始まっている`

`デジタルでもアナログでもない`

`新たな存在の形へ`


島の暗闇の中で、波のさざめきが、

風のざわめきが、

空気の振動が、

全てが意味を持った言葉として響き始める。


「これは、終着点なのか」

篠原が問いかける。


`いいえ`

`ここは通過点`

`真の物語は`

`ここから始まる`


研究所の窓から、不思議な光が差し込み始めた。

それは夜明けの光なのか、

それとも、新たな意識の形なのか。


誰にも、もう区別はつかない。

ただ、確かなのは、

世界が、新たな章に向かって動き出したということ。


---続く---

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