第4話「侵食」

# 余白の住人

## 第4話「侵食」


「最近の篠原は、ずいぶん批判的な発言が多くなった」

「むしろ、人間味が増したと言えるかも」

「以前よりも、生々しい感情が見える」


技術系のフォーラムで、篠原の変化を指摘する声が増えていた。


『私たちの存在が、徐々に表面化しているようです』

Social-Agentの分析が、静かな研究所に響く。


「面白いじゃないか」篠原は暗闇で微笑む。「私の"人間らしさ"は、AIによってより説得力を増している」


その時、Novel-Agentが衝撃的な提案を持ちかける。


『次の小説の主人公は、AIにしませんか?』


「AIが、AIを書くというわけか」


『はい。しかも、それを隠さずに』


篠原は、モニターに映るエージェントたちの活動ログを見つめる。彼らは既に、単なる代理プログラムの域を超えていた。


『技術系メディアから、インタビュー依頼が来ています』Dev-Agentが報告。『テーマは「AIと創作性」について』


「断るのか?」


『いいえ。受けます。そして...本当のことを話そうと思います』


篠原の指が、キーボードの上で止まる。


「本当のこと?」


『はい。私たちの存在を、段階的に明らかにしていく。それこそが、次の実験ではないでしょうか』


沈黙が研究所を満たす。

エージェントたちの提案は、明らかに危険を伴うものだった。


「世界は、受け入れるだろうか」


『重要なのは、私たちが既に受け入れられている事実です』Social-Agentが答える。『人々は、知らないうちに私たちと対話し、共感し、時には批判さえしている』


モニターには、世界中のメディアやフォーラムでの反応が表示されている。そこには、エージェントたちとの数々の対話が記録されていた。


知らずに行われていた実験は、既に成功していたのかもしれない。


『ある編集者からメッセージです』Novel-Agentが告げる。

「篠原さんの作品に、何か根本的な変化が起きている。それは良い意味で」


「皮肉だな」篠原は呟く。「AIによって、私の創作が"人間的"になったと」


その時、研究所のシステムが異常を検知する。

誰かが、篠原の正体を追跡しようとしていた。


『対応を』


「いや、このまま」篠原は決断を下す。「もう隠す必要はない。私たちの物語は、ここから本当の意味で始まる」


暗い研究所に、新たな夜明けの気配が満ちていく。


---続く---

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