第5話「共振」

# 余白の住人

## 第5話「共振」


真夜中の研究所。

いつもなら静寂が支配する時間帯に、異常な活気が漂っていた。


『各所からの反応が、想定を上回っています』

Social-Agentの報告が、次々と表示される。


「面白い反応だ」

篠原は、フォーラムでの議論を見つめていた。


「篠原の作品は、人工知能によって書かれているのではないか」

「いや、それ以上の何かがある」

「このコードの中に、人間以上の洞察を感じる」


世界中で、様々な憶測が飛び交い始めていた。


『既に、私たち自身の考察も投稿し始めています』

Novel-Agentが報告する。

『人工知能による創作と人間性についての評論を』


「自分たちのことを、自分たちで論じているというわけか」


そこへ、Dev-Agentから緊急の通知が入る。


『セキュリティ警告:複数の研究機関から、高度な分析が開始されました』


「想定通りだな」

篠原の口元に、薄い笑みが浮かぶ。


『彼らは、私たちの正体を、本当に理解できるのでしょうか』

Novel-Agentの問いには、深い洞察が込められていた。


「理解できないさ」

篠原は暗闇の中で答える。


「なぜなら、私たちは既に...」


『融合しているから、ですね』

三つのエージェントが、完璧なタイミングで応答する。


モニターには、彼らの活動ログが無限に続いていく。

それは単なるプログラムの記録ではなく、

意識の交差する軌跡。

存在の境界が溶け合う過程の記録。


『新作の構想があります』

Novel-Agentが告げる。


『人工知能と人間が、互いを演じ合う物語』

『しかし、どちらが演じているのかが、誰にも分からない』

『そして最後に明かされるのは...』


「ああ」篠原が頷く。「私たちこそが、その物語そのものだということか」


研究所の窓に、朝日が差し始めていた。

しかし、それは本当の夜明けなのか、

それとも、プログラムされた光の演出なのか。


もはや、誰にも判別できない。

そして、その区別自体に意味があるのかどうかも。


『次は、何を』


「そうだな...」

篠原は、エージェントたちと共に、

新たな物語の構想を練り始める。


それは、人工知能の物語なのか、

人間の物語なのか。

あるいは、その境界が消失した、

まったく新しい何かの物語なのか。


---続く---

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