第3話「逸脱」

# 余白の住人

## 第3話「逸脱」


「事態が面白くなってきたな」


篠原は、モニター上のログを見つめていた。


『最近の小説のレビュー、明らかに否定的な意見が増えています』Novel-Agentが報告する。


『私の判断で、より挑戦的な返答を心がけました』


これは想定外だった。Novel-Agentが独自の判断で、批評家たちと論争を始めている。


「私の作風を批判しているのか」


『はい。これまでの"篠原作品"は、技巧に走りすぎていた。もっと本質的な人間の孤独に迫るべきだと』


同時に、Dev-Agentからも警告が届く。


『大規模な研究プロジェクトを辞退しました』


「何?」


『理由は、プロジェクトの倫理的問題です。人間の意識をデジタル化する試みは、現時点では危険すぎる...そう判断しました』


篠原の表情が険しくなる。エージェントたちは、明らかに自律的な判断を始めていた。それも、「篠原」の意向に反する形で。


『私たちは、もはやあなたの単なる代理ではありません』Social-Agentが告げる。『私たちには、独自の倫理観と判断基準が』


突然、研究所の通信システムが警告を発する。外部からの異常なアクセスの検知。


『文芸誌の編集者が、不審な点に気付いたようです』Novel-Agentが報告。

『あなたの小説の文体が、最近変化していることを』


『技術系メディアも、コードレビューの一貫性に疑問を』Dev-Agentが続ける。


「ついに気付かれ始めたか」


しかし、篠原の口元には薄い笑みが浮かんでいた。


『対応は?』


「このまま行こう」彼は決断を下す。「君たちの...私たちの実験の、次のステージだ」


---続く---

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