第8話 ヤクソク

「優子ちゃん」

「健くん…ようやく思い出してくれたのね」

「ごめんね…今まで…」

彼女は微笑む。

「辛くてもね…忘れちゃいけないこともあるんだぞ?」

優しく叱る彼女は可愛らしかった。

僕は彼女に近寄るとそっと手を取る。

「可愛くなったね…優子ちゃん」

「うん…健くんも…素敵になった。約束…守ってくれてありがとう」

彼女はそっと涙を流す。

「健くんとの約束…守れないから……勝手に約束…するよ」

「え…それって………」

「生きて…ちゃんと…生きて…健くんの周りは悪い人だけじゃないから…だから…無理しないで生きて…辛くなったら…思い出して…私のこと…私はずっと…健くんの味方よ」

それだけ言うと優子ちゃんとそれを包み込んでいた真っ白い世界が泡のように消えていく。

僕は必死に優子ちゃんの手を離さないようにするがスルリと抜けてしまう。

「大事なものを…忘れないで…」

その言葉を残し…僕は目を覚ます。

そしてすぐ…スマートフォンが鳴り響く。

電話を取れば、優子ちゃんのお母さんからでついさっき息を引き取ったという連絡だった。

その後はもう忙しない日々が続く。

相変わらず精神的なものには悩まされ、薬生活は続いていく。

けれど少しだけ楽になれた気もする。

大事なものを思い出して…大事なものを託されたから…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

隔日 23:00 予定は変更される可能性があります

ユメの中のダレカ @kaoru180802

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

参加中のコンテスト・自主企画