第7話 シンジツ

電車に揺られながら僕は思い出していた。

学生時代にイジられてきた過去…それより先までも蓋をしていた僕の記憶。

だんだんに思い出してきた幼い日。

たしかに僕はあそこに住んでいた。

母と父がいて…僕がいた。

近くには…そう…あの写真の女の子…優子ちゃんが住んでいた。

僕の母が幼くして他界……父は僕を1人で育てるために仕事であそこから引っ越すことになった。

その時に泣いていた僕を優子ちゃんが慰めてくれた。そうだった…忘れていたんだ…。

僕は…優子ちゃんと…だから優子ちゃんは夢に出てきた…。大事なものを届けてほしいって……

必ず届ける…これを…


最寄りの駅につくと僕は走り出す。

病院の待受に名前を言えばどこの病棟か教えてもらえるはずと思い…病院にかけこんだ。

しかし今の世の中親族以外は通してもらえないと言われた。どうしても…どうしてもと病院内に響くほど僕は叫んだ。その時だ…


「健…くん?」

僕の名前を呼ぶ声がした。

その声に目をやるとあの1枚目に映っていた女性がいた。優子ちゃんのお母さんだ。

「お、お久しぶりです!あの!優子さんから言われて!これ…!」

震える手でお母さんに缶の箱を渡す。

お母さんは涙を流す。

「ありがとうね…来てくれたのね…案内するわ」

お母さんはそう言って僕を優子ちゃんの部屋まで案内してくれた。

部屋に入ると優子ちゃんは酸素マスクで眠っていた。

「突然倒れてね…今は寝たきり……目を覚まさないから…こんな感じに…ごめんなさいね…久々の再会なのに…」

僕は唖然とした。

こんな姿だったなんて…知りもしなかった。

覚えてすらいなかった…僕は自分が嫌になった。

「僕は…すみません…色んな事があって…さっきまで優子さんの事すら…覚えてなかったんです…すみません…僕は最低な人間です……」

お母さんは「じゃあ…どうして?」と聞いてきた。僕は夢の話をした。信じてもらえないかも…そう思ったがこの状況が真実なんだと…伝えた。

「そっかぁ…優子…そんなに健くんに会いたかったのね…言ってくれたら良かったのに…」

「え」

「この子ったら…次健くんに会ったら可愛いって思われたいから大人になるまで会うの我慢するって言ってたのよ…全くお馬鹿な子よね…」

そう言ってお母さんは優子ちゃんの髪をなでて涙を流した。

「優子…ちゃん…」

「優子…健くんちゃんと来たよ?お土産も…持ってきてくれたよ?…優子…優子…」

お母さんが問いかけるが優子ちゃんは目を覚まさない。

「…ごめん…優子ちゃん…約束…守れなくてごめん…ちゃんと…思い出した…早く会いに来ていれば…ごめんね…優子ちゃん…」

僕は涙を流す。何年ぶりだろうか…泣いたのなんて。涙が出ない日々が続き、人間として生きることさえ意味を探していた僕。でも優子ちゃんと再会してようやく人間に戻れた。

「優子ちゃん…あのね…話したいことあるんだ…たくさん…だから…だからさ…早く起きて…約…束だから…」

僕は優子ちゃんの手を握る。

それから電車の時間まで優子ちゃんに話しかけ続けた。


それから僕は長い1日を終え自宅に帰る。

僕はきっとこのまま人間として生きれる…生きる意味がようやく…わかった…そんな気がした。


そして夜…同じ時間に眠りにつく。

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