第5話 バショ
「約束」から数日間。
彼女は夢に出てこなくなった。やはり夢は夢だったのか…そう現実を突きつけられたようで落ち込みかける。
しかしスケジュール管理には今日その場所に行く表示が出ていた。行くべきかどうか…迷いに迷った。たかが夢ごときの話…誰も信じるわけがない。僕はどうしようか考えた。
しかし、彼女の最後の言葉だけが引っ掛かる。
僕は仕方なく重い腰を上げ着替えをする。
住所は僕の住む場所から電車で5駅のところだった。約40分の電車の旅。
心の中ではモヤモヤとしたものが今だに残っている。
現実であってほしいという思いと、夢なのに馬鹿馬鹿しいと自分に呆れている思いがグチャグチャに混じり合っていた。
最寄りの駅につくと、数人の人が降りていく。
僕も続いて降りる。
やはり夢でも見たとおり何もない田舎だ。
無人駅なので切符は箱に入れる。
そして駅から出ると近くにいた住民らしい人に声をかける。
「すみません…変なことをお伺いしますが…このようなご自宅はご存じないですか?」
夢を見たときから記していたノートには彼女の自宅らしき場所のスケッチもしてある。
絵はかなり上手い方なので伝わると思った。
「このへんは同じような家があるからねー…すまないね」
住民の人はそう答えた。
「ですよね…ありがとうございます」
僕はそのまま歩きだす。
どこに行けばいいのか分からない。ただ田んぼ道を歩く。
ほとんど人とはすれ違わない。
田舎あるあるだな…と僕は笑う。
少しした住宅街が見えたのでなんとなく入ってみる。住宅街といっても空き家が多い。
夜来ると少し不気味そうだ。
そんなとき玄関掃除をしていたおばあさんに会う。ダメ元で声をかけてみた。
「すみません…このご自宅ご存知ありませんか?黒いロングの女の子が暮らしていると思うんですが……」
そう言えばおばあさんは驚いた顔をした。
「これ新沼さんのところじゃないかね」
「にい…ぬま…さん?」
「このあたりに若い子なんてほとんどいないからね…新沼優子ちゃんはみんなの孫みたいなものだったんだよ。青いワンピースを着てる姿が印象的でね…」
僕は気づいたらおばあさんに詰め寄っていた。
「あの!その新沼さんのご自宅はどこでしょうか!?」
「…新沼さんなら…もういないよ…引っ越していったのさ…」
「引っ越した…?でも…彼女からは…ここに大事なものがあるんだって…」
「ん…事情は分からないから案内するまでお話聞かせてくれるかい?」
おばあさんは笑って歩き始めた。
僕は「あ、はい!」と返事をしてついていく。
そしておばあさんに夢の話をし始める。
おばあさんは僕の話を馬鹿にすることなく微笑んだまま聞いてくれた。
そしてやがておばあさんは立ち止まった。
「ここだよ…優子ちゃんの大事なもの…あるといいね」
【新沼】とかかれた表札はまだ残ったままだったがやはり誰も住んではいないようだった。
「鍵は空いているよ。私も一緒に入るから探し物をするといい」
おばあさんはそう言って家の中へ入っていった。
僕も続けて入っていく。
少し古臭い匂いが残る家だったがとても懐かしい感じがした。
あとはその【大事なもの】を探すだけだった。
残念ながら彼女からは聞いていないその【大事なもの】…手がかりになりそうな場所をしらみ潰しに探していこうと動き出す。その時だ。
「優子ちゃんの宝箱なら床下にあるはずよ。前にこっそり教えてくれたのさ…その中にはとても大事なものが入っているって」
おばあさんが微笑みながら教えてくれた。
僕は慌てて床下を見に行く。
台所にある唯一の床下…そこの取っ手を引っ張りだすと床下収納が出てきた。そこにはすこしさびている四角い缶があった。
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