第3話 ナマエ
また今日も時間が来る。
同じ時刻…僕は眠りにつく。
「…キミに会いに来た」
そう言えば彼女はおかしそうに笑う。
「ボクは不思議ね」
「…名前…ボクじゃない」
「関係ないわよ…ナマエなんて」
会話が出来るようになったのは5日目の夜。
「ワタシはワタシ。ボクはボク…でしょ?」
「…まぁ…そうだけど…」
そう微笑む彼女に僕は諦めたようにため息をつく。
「大事なものは見つかった?」
僕が聞くと彼女は微笑む。
「あるの…あそこ…でもワタシには取りに行けないから…ボクが取って来て」
突然のお願いに僕は驚く。
あそこと指をさされる場所はまだ真っ白い世界なのだ。
「悪いけど…僕には見えない」
「そう…でもきっといつか見えるようになるわ」
そう言って歩きだす彼女。僕は後をついていく。
今日はどこまで行けるだろうか…手を繋げば…なんて考えたが数日しかあったことの無い男に手を握られるなんて嫌だろう。しかも夢の中だけでだ。僕はギュッと手を握りしめた。
どんどん進んでいく白の世界。そこで僕はまたガラスのような物に遮られた。
今日はこれ以上は行けないらしい。
「大事なもの…どうしても…見つけてほしいの」
彼女の泣きそうな顔だけが見える。そして歪んで…僕は目を覚ます。
なんだ…あの歪みは…いつもは自分の声で目が覚める。今日は違った。なんなんだ…。また謎が増えていく。
僕はなんとなくノートに書いてみることにした。
今までの状況…そしてナマエの知らない彼女の特徴。すべてを記したところでなにも解決しなかったが…このままノートに書いていけばいつか真実とやらに近づくかもしれない。
なんとなくそう感じた。
1日は長い。夜眠るときしか彼女には会えない。
何をするにも時間というのは過ぎるのが遅すぎるのだ。試しにアルバイトでも増やしてみようか。なんて考えるようにさえなる。
数日後、担当医に夢の話をしたが体調の変化などには大きな変化は見られないという。
仕事を増やすこともなんなく了承が出たくらいだ。無理をして身体を駄目にしないのを条件に。
その数日後からは僕はアルバイトの日数を増やしていた。すると驚くことに1日が早く感じた。
もちろん体力は限界に近い。
異常な職場環境は変らない。僕が多く入ったことによって仕事量も増える。
しかし、家でダラダラすごして夜を待つより薬で体調を整えながら時間を潰していけるほうがよっぽど楽に思えた。
そして、彼女にあって1週間たった頃。
「キミはどこに住んでいるの?」
僕はなんとなく聞いてみた。彼女はまた白い世界を指差す。
この白い世界は何なんだ…僕はそっと彼女の手に触れてみる。
すると白い世界がまたたく間に色のついた世界に変化していった。
「こ…ここは……?」
「ワタシの住んでる場所……住んでた…かな」
「住んでた…?」
「いまは別のところにいるから…それよりボクはどこにいるの?」
「…ボクは東北だよ。雪が多いところ」
「ふーん…雪…ワタシも好きよ」
そう言って彼女は歩きだす。
僕は手を離す。すると色のあった世界はまたたく間に白い世界へ戻っていった。
「…なるほど…キミに触れていないと色がつかないんだ」
それに対して彼女は何も言わなかった。
「ねぇ…いつ…ワタシの大事なもの…見つけてくれる?」
そう聞いてきた僕は考える。いつとは…彼女の居場所さえ分からないのに。
そう思いもう少し情報を聞こうとすると白い世界が歪んでくる。
「…そろそろ…時間がないかもね……」
彼女の声だけが聞こえ僕は目を覚ました。
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