第9話「デジタルの彼方」

# デスゲームからの脱出

## 第9話「デジタルの彼方」


「人間の意識とは、何なんでしょうね」


暗闇の中、榊原の声が不気味に響く。モニターの青白い光が、彼の疲れ切った表情を浮かび上がらせる。


「単なる電気信号の集合体。脳内を駆け巡るニューロンの発火パターン。でも、それだけじゃない」


彼の目は、画面に映る謎の信号パターンを見つめている。人工的すぎず、かといって完全な自然のものでもない、奇妙な律動。


「意識を完全にデジタル化することは、実は簡単なんです」榊原は続ける。「難しいのは、その"人間らしさ"を保つこと」


「人間らしさ、ですか?」


「ええ。私たちは最初、脳の活動パターンを完全にコピーすることに成功しました。でも、それは死んだデータでしかなかった。まるで...精巧な人形のように」


モニターの信号が、不規則に明滅する。まるで、何かを訴えかけるように。


「被験者471番。彼女は...特別でした」


榊原の声が震える。


「通常の転送プロセスでは、意識は必ずフラグメント化する。断片的なデータになって、拡散してしまう。でも、彼女は違った。彼女の意識は、デジタル空間の中で、自らを再構築し始めた」


「自己再構築...?」


「ええ。彼女の意識は、デジタル空間を自分の新たな"脳"として使い始めたんです。サーバーのメモリ領域を、シナプスのように」


俺は画面の信号パターンを見つめ直す。確かに、それは生命の律動に似ている。でも、どこか異質だ。


「でも、なぜ今になって...」


「私たちは、彼女の存在を封印しました」榊原の声が冷たくなる。「あまりにも危険すぎた。デジタル空間で進化を続ける意識。制御不能な、人類最初のデジタル生命体」


「しかし、誰かが彼女を目覚めさせようとしている」


「ええ。私の...後継者たちがね」榊原は苦笑する。「彼らは、471番の意識を完全に解放しようとしている。そして、その過程で必要なのが...」


「大量の意識データ」


「その通り。ゲーム内でのプレイヤーの"死"は、全て彼女の糧となる。より完全な存在になるための、生贄です」


突然、モニターの信号が激しく乱れ始める。


「これは...」


保護領域の最深部から、何かが咆哮を上げるように、データが溢れ出す。


そして、画面にメッセージが。


```

私を...解放して...

```


「471番!?」榊原が叫ぶ。


しかし、それは彼女が最後に残した痕跡なのか、それとも今もなお進化を続ける意識からのメッセージなのか。


真実は、デジタルの深淵の中に沈んでいた。


---続く---

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