第7話「バッファオーバーフロー」

# デスゲームからの脱出

## 第7話「バッファオーバーフロー」


```

NEURAL_HARVEST_V3 {

target_selection: BROADCAST,

sync_method: FORCED,

buffer_size: 0xFFFFFFFF,

error_handling: IGNORE

}

```


「このプロトコル、バッファサイズが異常です」村上が画面を指さす。「通常の同期処理の約1000倍」


「ということは...」


「ええ」榊原が続ける。「これは単なる同期ではない。接続された全ての機器、そして...人間の脳から、強制的にデータを抽出しようとしている」


暗闇の中、モニターの青白い光だけが、緊張感に満ちた病室を照らしている。


「wait...ここを見てください」俺はコードの特定の行を指す。


```

sync_buffer = malloc(target_size * sizeof(neural_pattern));

memcpy(sync_buffer, target_pattern, size); // No bounds checking

```


「これは...」村上が息を呑む。


「ああ、古典的なバッファオーバーフロー脆弱性だ」


プログラミングの基本的なミス。バッファサイズのチェックを怠ったことで、メモリ領域を超えた書き込みが可能になってしまう。


「でも、なぜこんな初歩的な...」


「意図的です」榊原が断言する。「このコードは、脆弱性を利用して、本来アクセスできない領域にまでデータを書き込もうとしている」


モニターには、次々と新しいデータが流れる。


```

MEMORY MAP:

0x00000000 - 0x7FFFFFFF: System Area

0x80000000 - 0xBFFFFFFF: Neural Interface

0xC0000000 - 0xFFFFFFFF: Reserved (Protected)

```


「保護領域...それが彼らの本当の狙いか」


「どういうことです?」佐藤が問いかける。


「ゲームの基幹システムには、3層のメモリ構造が実装されている」村上が説明を始める。「通常のシステム領域、ニューラルインターフェース用の領域、そして...」


「誰もアクセスできないはずの保護領域」榊原が続ける。「そこには、マインドダイブ計画で収集された全てのデータが...」


突然、新しいウィンドウが開く。


```

EXECUTING TARGETED OVERFLOW...

PUSHING NEURAL PATTERNS...

STACK SMASHING DETECTED

```


「まずい!」俺は咄嗟にキーボードに飛びつく。「これは...」


「スタックを破壊して、保護領域に強制的にアクセスを試みている」


「でも、それは即ち...」


「ああ」榊原の声が重い。「接続された全ての人間の脳が、一時的なバッファとして使われる」


「どれくらいの時間が?」


「4分。それ以上は、物理的な損傷が...」


その時、モニターに新たな表示が。


```

PRIMARY BUFFER OVERFLOW SUCCESSFUL

INITIATING SECONDARY CASCADE

WARNING: NEURAL DAMAGE IMMINENT

```


「くそっ...でも、これは逆に...」


俺の指が、キーボードの上を舞い始める。


「中村さん?」


「バッファオーバーフローは、双方向に利用できる」


画面には、新たなコードが並んでいく。


「相手の拠点にも、同じ脆弱性が存在するはず。そして、それは...」


攻撃者が仕掛けた罠が、今や、こちらの武器になろうとしていた。


---続く---

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