第4話 運命
「はい。蓮太くん、あーん」
にっこりと笑ってパフェスプーンを差し出してきた美少女は新だ。
放課後、わざわざトイレで女子の制服に着替えた新と、学校近くのカフェにやってきた。
可愛いパフェがメイン商品の、あからさまなデートスポットである。
「ほら。ちゃんと食べてよ。あーん」
「あ、ああ……」
さすが新だ。女子の制服も似合っているし、正直美少女とデートしているとしか思えない。
でもなんでいきなり、女装してデートしようなんて言い出したんだ?
試したいことって女装か?
「ふふっ。美味しいね、蓮太くん」
可愛い。
こいつが男じゃなかったら、たぶん俺はとっくの昔に告白していた気がする。
「ねえ。蓮太くんもあーん、して?」
甘えるように新が首を傾ける。ノリノリな新の意図はよく分からないが、せっかくの機会だ。まあ、楽しめるものは楽しんでおくとしよう。
◆
『もしもし。今、時間ある?』
風呂上がりに部屋へ行くと、新からのメッセージに気づいた。
ちょうど五分前だ。慌てて電話をかけると、新はすぐに出てくれた。
「ごめん、風呂入ってて」
『いや。それより今、一人?』
「ああ。菫は風呂入ってるから」
『よかった』
よかった? どういうことだ? 菫に聞かれたくない話でもあるのか?
『念のため、家から出て、外で話してほしい。荷物は持たないで』
「別にいいけど……」
なんでだ? と思いつつ、新に従って家を出る。ちょうど喉も渇いているし、近くのコンビニでジュースでも買って帰ろう。
『そろそろいい?』
「ああ」
『今日デートの帰り、めちゃくちゃナンパされたんだ』
「……自慢か?」
『違うって。問題なのはその質だよ』
電話越しでも、新が困ったような顔をしているのが分かる。
『やたらとイケメンだったんだ。声をかけてきた男が全員。こんなの、あり得なくない?』
「……確かに」
『磯貝と一緒の状況なんだよ、これ。僕たちに共通してることがあるの、分かる?』
目を閉じ、一度頭の中を整理する。二人に共通していることが本当にあるのだろうか。
どうしても俺が答えを出せずにいると、痺れを切らしたように新が言葉を続けた。
『蓮太と仲良くしようとしたことだと思う』
「……仲良く?」
『そう。そもそも今までの彼女も変だと思わない? みんな、蓮太と付き合った後、好みのイケメンと出会ってる』
「……たまたまだろ」
『そうかな? 僕が思うに、たぶん……』
それ以上、新の話を聞くことはできなかった。
いきなりスマホを奪われ、電話を切られたから。
「だめじゃん、お兄ちゃん。出かける時は、ちゃんと言ってから家を出ないと」
ね? と笑った菫は可愛い。それはいつも通りのはずなのに、なぜかその笑みにぞっとする。
「それに今日もまた、女の子とデートしてたでしょ」
「……え?」
「私にしたらって言ったのに」
なんで菫は、俺が今日女の子とデートしたことを知ってるんだ? いやまあ、実際は女装した新なんだが。
「私ね、お兄ちゃんのことならなんでも知ってるよ? 好みのタイプだって、全部全部」
菫が近づいてきて、俺の手をぎゅっと握った。俺を見上げる菫は、今まで見たことがない顔をしている。
妖艶で色っぽくて……どこか危なげで、どきっとする顔。
「それにどうせ、他の子となんて上手くいかないよ。だって、私が全部邪魔してるんだもん」
「菫……」
「安心して? 私悪いことはしてないから。ただみんなに、他の人を紹介してあげただけ。本当にお兄ちゃんが好きなら、浮気したりしないのにね」
付き合ってきた彼女たちは全員、新しい男を作って俺に別れを告げた。
そしてその男たちはみんな、悔しいけどいい男で、彼女たちのタイプど真ん中の男だった。
それを全部、菫が仕組んでたってことか……!?
「今までお兄ちゃんの恋が上手くいかなかったのは、選ぶ相手が悪かったからなの。運命じゃない相手を選んでたのが悪いんだよ」
頭が混乱しっぱなして、思考が上手くまとまらない。
そんな俺に、菫は笑顔で話し続けた。
「お兄ちゃんの運命の相手は私だから。赤い糸、切れるなんて思わないでね?」
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