第4話 運命

「はい。蓮太くん、あーん」


 にっこりと笑ってパフェスプーンを差し出してきた美少女は新だ。

 放課後、わざわざトイレで女子の制服に着替えた新と、学校近くのカフェにやってきた。

 可愛いパフェがメイン商品の、あからさまなデートスポットである。


「ほら。ちゃんと食べてよ。あーん」

「あ、ああ……」


 さすが新だ。女子の制服も似合っているし、正直美少女とデートしているとしか思えない。


 でもなんでいきなり、女装してデートしようなんて言い出したんだ?

 試したいことって女装か?


「ふふっ。美味しいね、蓮太くん」


 可愛い。

 こいつが男じゃなかったら、たぶん俺はとっくの昔に告白していた気がする。


「ねえ。蓮太くんもあーん、して?」


 甘えるように新が首を傾ける。ノリノリな新の意図はよく分からないが、せっかくの機会だ。まあ、楽しめるものは楽しんでおくとしよう。





『もしもし。今、時間ある?』


 風呂上がりに部屋へ行くと、新からのメッセージに気づいた。

 ちょうど五分前だ。慌てて電話をかけると、新はすぐに出てくれた。


「ごめん、風呂入ってて」

『いや。それより今、一人?』

「ああ。菫は風呂入ってるから」

『よかった』


 よかった? どういうことだ? 菫に聞かれたくない話でもあるのか?


『念のため、家から出て、外で話してほしい。荷物は持たないで』

「別にいいけど……」


 なんでだ? と思いつつ、新に従って家を出る。ちょうど喉も渇いているし、近くのコンビニでジュースでも買って帰ろう。


『そろそろいい?』

「ああ」

『今日デートの帰り、めちゃくちゃナンパされたんだ』

「……自慢か?」

『違うって。問題なのはその質だよ』


 電話越しでも、新が困ったような顔をしているのが分かる。


『やたらとイケメンだったんだ。声をかけてきた男が全員。こんなの、あり得なくない?』

「……確かに」

『磯貝と一緒の状況なんだよ、これ。僕たちに共通してることがあるの、分かる?』


 目を閉じ、一度頭の中を整理する。二人に共通していることが本当にあるのだろうか。

 どうしても俺が答えを出せずにいると、痺れを切らしたように新が言葉を続けた。


『蓮太と仲良くしようとしたことだと思う』

「……仲良く?」

『そう。そもそも今までの彼女も変だと思わない? みんな、蓮太と付き合った後、好みのイケメンと出会ってる』

「……たまたまだろ」

『そうかな? 僕が思うに、たぶん……』


 それ以上、新の話を聞くことはできなかった。

 いきなりスマホを奪われ、電話を切られたから。


「だめじゃん、お兄ちゃん。出かける時は、ちゃんと言ってから家を出ないと」


 ね? と笑った菫は可愛い。それはいつも通りのはずなのに、なぜかその笑みにぞっとする。


「それに今日もまた、女の子とデートしてたでしょ」

「……え?」

「私にしたらって言ったのに」


 なんで菫は、俺が今日女の子とデートしたことを知ってるんだ? いやまあ、実際は女装した新なんだが。


「私ね、お兄ちゃんのことならなんでも知ってるよ? 好みのタイプだって、全部全部」


 菫が近づいてきて、俺の手をぎゅっと握った。俺を見上げる菫は、今まで見たことがない顔をしている。

 妖艶で色っぽくて……どこか危なげで、どきっとする顔。


「それにどうせ、他の子となんて上手くいかないよ。だって、私が全部邪魔してるんだもん」

「菫……」

「安心して? 私悪いことはしてないから。ただみんなに、他の人を紹介してあげただけ。本当にお兄ちゃんが好きなら、浮気したりしないのにね」


 付き合ってきた彼女たちは全員、新しい男を作って俺に別れを告げた。

 そしてその男たちはみんな、悔しいけどいい男で、彼女たちのタイプど真ん中の男だった。


 それを全部、菫が仕組んでたってことか……!?


「今までお兄ちゃんの恋が上手くいかなかったのは、選ぶ相手が悪かったからなの。運命じゃない相手を選んでたのが悪いんだよ」


 頭が混乱しっぱなして、思考が上手くまとまらない。

 そんな俺に、菫は笑顔で話し続けた。


「お兄ちゃんの運命の相手は私だから。赤い糸、切れるなんて思わないでね?」

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