第2話 兄として
「す、菫……! お前……!」
「なーに? だめなの? お兄ちゃん?」
「だめに決まってるだろ、こんなの……!」
動揺しまくっている俺と違い、菫はいつも通りの笑顔だ。勢いよく俺に抱き着いてくる。
そうすると、いつの間にか育っていた、菫の柔らかいものが身体に当たってしまう。
身長が伸びなかった分、栄養がこっちにいったのか?
なんて、妹相手に考えることではない。そう思っていても、つい考えてしまう。なにせ先程、妹からキスをされたばかりなのだから。
「ねえ、ご飯にする? お風呂にする? それとも、私?」
「……菫」
軽く睨みつけると、菫が傷ついたような顔をする。わざとだと分かっていても、この顔の菫に俺はとにかく弱い。
「……ご飯。今日も作ってくれてありがとうな、菫」
◆
「お兄ちゃん。一緒にお風呂入る?」
夕飯を食べ終えると、菫はいつも通りの笑顔でそう言ってきた。
「入らない」
「どうして? 私たち兄妹なのに」
「もう何年も一緒に風呂なんか入ってないだろ!」
「……むー」
菫は頬を膨らませ、可愛らしく俺を睨みつけてくる。本当に可愛いのが迷惑だ。
確かに昔は一緒に風呂に入っていた。だがもう菫は中学三年生だ。兄と一緒に風呂に入るような年じゃない。
「お兄ちゃんが悲しんでるから、癒してあげようと思ったのに」
今度は泣きそうな顔になって、菫が俺を見つめる。他のことならなんでも頷いてやりたいけど、さすがにこれは無理だ。
「その気持ちは嬉しい。ありがとな、菫」
立ち上がって、菫の頭を軽く撫でてやる。そうすると、気持ちよさそうに目を細めるところは昔から変わっていない。
菫は昔から俺のことが大好きだ。忙しい両親に代わり、俺が菫の面倒を見ていたからだろう。
だからこの年になってもまだ、あんなことしてきたんだよな?
菫の好意はあくまでも、兄として俺を慕っているから……のはずだ。キスしてきたのも若気の至りというか、子供の勘違いというか、きっとそういう類のはず。
「お兄ちゃん」
「なんだ?」
「じゃあせめて、一緒のベッドで寝てもいい?」
「……それは」
「だめ? 一緒に寝るだけだよ? お兄ちゃん、お願い。ね? 私、寂しいの」
寂しい、なんて言われてしまうと俺はもうだめだ。
それにまあ、風呂に入ることに比べたら一緒に寝るくらい、いいよな?
「分かった。今日は一緒に寝よう、菫」
「やったー! お兄ちゃん大好き!」
◆
「……その格好はなんなんだ?」
「なにって、パジャマだよ?」
きょとん、とした顔で菫は首を傾げたが、そうか、と頷くわけにはいかない。
「昨日までそんなパジャマじゃなかったよな!?」
「うん。そろそろ暑くなってきたし、新しいやつに変えたの。ジェラポケのやつだよ、可愛いでしょ!」
ジェラポケ……というのは、有名な女性用ルームウェアのブランドだ。確か、4人目の彼女にねだられて、誕生日プレゼントに買った記憶がある。
「ねえ、お兄ちゃん。可愛くないの?」
「……いや、間違いなく可愛いけど」
サマーニットのセットアップは淡いピンク色で、飴玉柄が部屋着らしくて可愛い。デザイン自体は何の問題もない。
問題は露出度だ。胸元は大きく空いているし、ショートパンツはあまりにも短い。
これを着た菫と一緒に寝るのか?
菫、結構寝相悪いよな……。
「嬉しい! お兄ちゃん、いつも褒めてくれてありがとう」
菫が抱き着いてくる。むにゅ、という感触は明らかにいつもと違った。あまりにも柔らかすぎる。
まさかこれ、下に何も着てないのか?
パジャマってそういうものなのか?
「どうしたの、お兄ちゃん?」
確信犯だろう菫は、ぐいぐいと俺に胸を押し当ててくる。だが兄として、胸が当たってるぞ、なんて言えない。
だってそんなの、意識してるって言うようなもんだろ……!?
「……なんでもない。寝るか」
「うん!」
◆
部屋中に鳴り響くアラーム音で目を覚ます……ことはなく、アラームが鳴った瞬間、俺は即座に手を伸ばしてアラームを止めた。
現在の時刻は午前7時。
「一睡もできなかった……」
ちら、と横を見ると、気持ちよさそうな顔で菫が眠っている。寝顔は幼い頃と変わっていないのに、ずいぶんと大きくなってしまった。
寝ている間に何度も動いたせいで、パジャマが乱れている。布団をめくれば見えちゃいけないものが見えてしまいそうで、身動きが取れない。
しかし、そろそろ起きる時間だ。朝食当番は俺だから、いつまでも寝ているわけにはいかない。
菫は、まだ起こさなくていいよな。
布団をめくってしまわないように、そっとベッドから下りる。成功した! と思った瞬間、後ろから手を引っ張られた。
「おはよ、お兄ちゃん」
「菫……」
パジャマのボタンがなぜか二つも外れていて、胸の谷間がはっきりと見える。
絶対わざとだろ、これは。
「おはようのちゅー、する?」
「しない。ふざけたこと言ってないで、学校の準備するぞ」
「……はーい」
不貞腐れたように返事をし、菫は俺の腕にぎゅっと抱き着いた。
「そうだ、お兄ちゃん」
「……なんだよ?」
「いつでも揉んでいいからね」
なにを、なんて聞くまでもない。にっこりと笑った菫はあまりにも可愛くて、天使にしか見えない。でも悪魔だ。
菫は、俺の理性やら倫理観やらを全部、ぶっ壊そうとしてくる。
「俺たちは兄妹だからな、菫」
兄として俺は、責任をもってこいつの過ちを正さなきゃならない。
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