☆23 サイレニアへ
翌日の早朝、顔を洗っているとエリシアが入ってきた。
後ろには二人の人物が従っていたが、ガルドとフィアではなかった。
細身で長身、サラサラの金髪をなびかせるイケメンと、亜麻色の髪を肩先で切り揃えた修道女のような恰好のエルフだった。
「ソウタ、準備は出来ましたか?」
「いや、これから朝飯なんだけど……。」
エリシアは軽く頷いて、
「それなら、街に立ち寄るからそこで一緒に軽く済ませましょう。」
と言った。
俺は後ろの二人に視線を送った。
エリシアもその視線に気づいたようで、すぐに口を開いた。
「あ、紹介が遅れましたね。今回、一緒に旅をする魔剣士のノアと司祭のユナです。二人とも冒険慣れをしているので頼りになるはずです。」
ノアは優雅に一礼し、ユナは穏やかな微笑みを浮かべた。
「あ、どうも。宜しくお願いします。ソウタです。」
俺は少し警戒しながらも自己紹介をした。
二人は微笑んで、それぞれ「宜しく」と言ってきた。
ノアの声は低く落ち着いていて、ユナの声は柔らかく心地よかった。
あれ?
この二人は人間を差別してないのか?
全く敵意を感じない。
俺はちょっと安心したが、出発前に気になることがある。
「カグツチとヴァルドも連れていきたいんだけど、大丈夫?そろそろ馬車にも入らない位のでかさになってきたんだけど。」
エリシアは少し考え込んだ後、申し訳なさそうに答えた。
「そうですね……、さすがに道中の宿に泊めてもらえない可能性が高いので、今回はお留守番をして頂きます。」
「留守番?でも、あいつらが暴れたりしたら、おたくの家にも被害が及びそうだけど……。」
「安心してください。ガルドが責任を持って面倒を見ますので。」
エリシアは優しく微笑んだ。
ガルド.....エリシアのお供から、魔獣のお世話係に格下げになったか……。
俺は心の中で合掌した。
ルビスは俺の肩に止まり、首をかしげてこちらを見つめている。
ここに居残りさせると、ヴァルドに狩られる可能性があるよな……。
こいつは一緒に連れてくことにしよう。
「ガルドだと、ちと不安だけど仕方ないか。じゃ、俺の準備はもうOKだよ。」
そう言って昨日の晩にパンパンに詰め込んだバックパックをよっこらせと担ぐと、俺たちは外に出る。
豪華な荷馬車が待っていた。
車輪は金色に輝き、馬たちは白銀のたてがみを揺らしている。
御者のエルフは無言のまま、軽く会釈をすると、俺たちを迎え入れる。
馬車の中もふかふかの座椅子が設置されており、快適な旅が出来そうだった。
てか、これいくら位するんんだろう……。
前に冒険した時とは比較にならない程グレードアップしている。
外の景色を眺めたいので、俺は窓際の席を確保した。
改めて、馬車の中で初対面のノアとユナが自己紹介をする。
「エリシア様が大分、お世話になっているとのことで、今回、一緒に冒険する機会を得て光栄に思います。」
ユナが微笑みながら言う。
「え、あぁ、こちらこそ。エリシアには土地まで買ってもらって、頭が上がらないです。」
うん、やはりフィアたちとは違う。
「それにしても、人間に対する軽蔑とか、そういったのが感じられないっすね。ちょっと身構えてたんですけど。」
「僕たちは冒険者生活が長いから。優秀な人間たちとも数多くご一緒してきたしね。それに君のマナを見れば只者ではないことなど、すぐに分かるし。」
ノアもまた柔和な表情で答える。
あぁ、こういう人たちならば、旅の道中を楽しく過ごすことが出来そうだ。
俺は前回の旅でガルドとフィアからいかに不当な扱いを受けてきたかを延々と愚痴ったが、二人は苦笑して、まぁ外に出ないエルフたちの中にはそのような者がいるのも事実だね。
残念だけれど、と申し訳なさそうに肩を竦めた。
◆◆◆
東へ進むにつれ、サバンナのような景色が広がってくる。
広大な草原には、点々と木々が立ち並び、風が草を揺らして波のように見える。遠くには、野生の動物たちが群れを成して移動しているのが見えた。
空は澄み渡り、太陽が高く昇っている。
エリシアは帰国中の修業の成果を自慢げに報告してきた。
「ソウタ、私はもう貴方が知っているような私ではなくなりました。アグニを顕現できる時間も大幅に伸び、足手まといにはならないはずです。」
ほう、それは心強いな。
「どうせ、次の目的の魔神もヤバいんだろ? 修業の成果を楽しみにしてるよ。」
俺とエリシアの気軽なやり取りを見て、ノアとユナは意味ありげな視線を交わし、ニヤニヤしている。何だよ.....何か言いたいことでもあるのか……。
数日もすると、馬車は国境を抜け、サイレニア連邦の領土に入っていった。
ヴァルハリオン王国の三倍くらいはあるという、大きな国だ。
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