☆21 エリシアのお土産

 ヴァルドを引き取って一ヶ月近く経った。

 俺のマナを吸収し、すくすくと育ち、既に大人のメインクーンと同じ位のでかさになっていた。カグツチとは良い遊び仲間になったようで、一緒に走り回ったりじゃれあったりしている。

 ちなみにカグツチも既にドーベルマン位の大きさになっていて、もう子犬扱いは出来ない。


 カグツチが無意識のうちにまき散らし始めている炎のマナは、さすがに危険な気がしてきた。敷地内を安全に保つために、水の魔力を含んだ魔道具をあちこちに散りばめることにした。

 火を感知すると自動で水が噴出される仕組みだ。

 もちろん家の中にもだ。

 これで少しは安心できるだろう。


 一方、ヴァルドは虫や小動物を見つけると、それに向かって吠えかかり、口から衝撃波のようなエネルギー波のような何かを放出するようになった。

 隣のエリシアの豪邸に傷を付けるわけにはいかないので、お互いの家の間に特殊なマナで強化された壁を設置した。


 そんな感じで、餌代はかからないが、諸経費で軽く金貨1枚は飛んでしまった。

 魔道具の設置や壁の強化は予想以上の費用だった。

 俺はちょいちょいギルドに立ち寄り、簡単な報酬を受けては日銭を稼いでいた。

 ギルドの仕事は多岐にわたり、時には魔獣退治、時には薬草の採取など、様々な依頼があった。


 アイザは週に一回はやってきて、ヴァルドだけではなくカグツチとも楽しそうに遊んでいた。一緒にやってくる従者たちは顔面蒼白で、この魔獣たちがいつ自分たちを襲ってこないか常にビクビクしていた。


 そんな感じで今日もアイザを迎え入れていると、突然ノックも無しにバン!と扉を開けられた。ビクッとなって、振り返るとエリシアが籠を抱えて入ってきた。


「ソウタ、只今戻りまし……あら、そちらの方々はどなたかしら?」


 ソファでヴァルドとじゃれているアイザとその側に控える付き人たちが早速目に入ったようだ。


「ああ、お帰り。えっと、新しくベヒーモスの子供を飼うことになったんだけど、こちらは前の飼い主さんとその従者さんたち。時々、遊びに来てくれるんだ。」


「ベヒ……!!」


 一瞬、驚愕の表情を浮かべたエリシアだったが、すぐにいつもの冷静さを取り戻すとため息をつき、


「今さら貴方が何をしても驚かない自信はありましたが、ちょっと意表をつかれました。そこのお嬢さんもよくベヒーモスを恐れることなく遊べますね。将来、大物になるかもしれません。」


 アイザとエリシアはお互い、簡単に自己紹介を交わすとエリシアはテーブルに籠を置き、その中から馬鹿でかい卵を取り出した。


「これはお土産です。私の故郷の山奥で発見されたのですが、このような大きな卵は我が国が誇る学者たちでも見たことが無いようで、色々な角度から調査はしたものの、正体は不明でした。ただ、日増しにこの卵が学者たちのマナを吸収する力が強まってきて……、危険だから孵る前に処分してしまおう、という話になったんです。」


 にっこりと笑ってエリシアは続ける。


「でも、まだ生まれてもいないのにそれでは可哀そうでしょう?なので私が引き取ってソウタにプレゼントすることにしたのです。」


 おいおい!!

 危険なんじゃないの??

 俺を何だと思ってるの??

 俺の家は魔獣の保護施設じゃないぞ。


 アイザは珍しそうに卵を撫でまわしている。

 エリシアはそんなアイザの様子を微笑んで見つめていたが、突然、俺に向けて鋭く、刺すような視線を向けて問いかけてきた。


「ところで、先ほどここに来る前に気づいたのですけど、私と貴方の家の間にある、あの壁は何でしょうか?あのようなものを作らせるよう指示した覚えはないのですが。」


「あー、あれはこのヴァルドが何か口からエネルギー波みたいなのを出すようになったから、間違ってそちらの家に傷でもつけないようにと……、修理代とかめっちゃ掛かりそうだし。」


 エリシアは少し拍子抜けしたような感じで


「そうですか、そのようなこと気にしなくても良いのに。てっきり私との間に心理的な壁でも築きたいのかと思ってしまいました。」


 何だよ、心理的な壁って。


「それはそうと、次の冒険の場所が決まりました。ヴァルハリオンの東の隣国、サイレニアの小さな地方都市になります。私の従者たちが、あと数日もすればこちらに到着するでしょうから、それまでに準備を整えていてください。」


 そう言ってエリシアは立ち上がると、家の片づけをしなければいけないとのことで、まるで嵐のように帰っていった。


 そして、テーブルには怪しく発光する巨大な卵だけが残されていた。

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