★4 銀狼守護団②
アレクシスが銀狼守護団に入団してから数か月が過ぎた。
学院時代と同じかそれ以上に厳しい訓練に明け暮れる日々が続いていた。
国中から選別されたエリート中のエリートの集まり。
さすがのアレクシスも油断すると、模擬戦では一本取られるような、そんな緊張感のある毎日だった。訓練場では剣術や格闘術、魔法の応用技術などを磨き、集団戦闘の連携訓練も行われた。
外地への遠征訓練では、自然の厳しさと戦いながら実戦に近い状況でスキルを磨いた。
同期のダリウスとハリドとは所属チームが異なっていたが、時間が合えば一緒に食事を楽しみ、互いに励まし合いながら絆を深めていった。
「なぁアレクシス、お前、団長に勝てると思う?」
今日も午前の訓練を終えると、王宮の庭園内でサンドイッチを食べながら、ダリウスがいつもの気軽な感じで聞いてくる。
庭園の美しい花々と静かな噴水の音が、訓練の疲れを癒してくれる。
「マナの強さ自体は同じ位に見受けられるね。『閃光の守護者』、本気を出すとどんな能力なのかな。」
それに答えたのはハリドだった。
彼はサンドイッチを一口かじりながら、興味深そうにアレクシスを見つめる。
「で、実際、どうなんだい?」
そして、アレクシスに振る。
アレクシスは苦笑して首を振った。
最初の頃は、同期とはいえ年齢差もあり敬語を使っていたが、最近は気にすることも無くなっていた。
「マナの強さなんて、実力を示す上での一要素にしか過ぎないよ。団長まで昇りつめた人なんだから僕よりも全然、強いんじゃないのかな?」
そんな回答をしたものの、本心では自分が負けることなどないだろうと思っていた。これはまだ誰にも明かしていない自分のマナの特性による。
周囲の人々は、アレクシスを身体能力強化が本質だが、魔術もそつなくこなせる天才だと認識していた。エレメンタルゴールドが特殊な反応を示したのは、この両方をバランスよく使いこなせるからだろう、と結論付けていたのだ。
しかし、実際のところは違った。
その両方を使いこなすために、学院内で血の滲むような努力を重ねてきた。
彼のマナが持つ本来の性質は、その時が来るまで、隠しておかなければならないと、何となくそう思っていた。
◆◆◆
アレクシスは実力をいかんなく発揮し、異例の速さで出世していった。
もちろん、実力だけではない。
生家の名門ヴァルフォード家の威光も大きかったはずだ。
しかし、上に行くほど嫌な現実も見えてくる。
腐敗しきった王族や上級貴族たち。
彼らは毎晩のように豪華な宴を開き、笑い声を響かせている。
その一方で、自分たちは泥まみれになりながら剣を振るい、命を削っている。
何のために?
誰のために?
訓練場での一日が終わり、疲れ果てた体を引きずりながら、聳え立つ城を見つめた。あの城の中では、今日もまた煌びやかなシャンデリアの下で、王族たちが贅沢な料理を楽しみ、ワインを片手に笑い合っているのだろう。
彼らの笑い声が、まるで自分たちの努力を嘲笑っているかのように感じられた。
(果たして本当に僕たちが命を捧げるに値する人たちなのか?)
アレクシスの心の中で、その疑問は日に日に大きくなっていく。
銀狼守護団は表向きは実力主義で、実力が足りない者は入れ替わるとされていたが、実態は違った。守護団に入る者は確かに全員実力があるが、蹴落とされるのはコネのない下級貴族や平民出身者ばかりであった。
近々、入れ替えの対象になる、と噂されているユハクなど、その典型だ。
平民出身というだけで冷遇されているが、その実力はアレクシスの見立てでは、この守護団の中でもトップクラスだった。
アレクシスは、前世の高校生活では上手くいかなかったが、今度こそ、この世界で、よりスケールが大きい中で、誰にとっても公平で不満のない理想の世界を築きたいと強く願うようになっていた。
自分がこれほどまでの力を持って生まれ変わったことの意味を考える。
そのために何が必要かを考え、密かに、しかし着実に準備を進めることを決意していた。
まずは、この銀狼守護団を追い出された者たちの情報を集め、連携することから始めよう。
日々の訓練が終わると、極力、社交の場の誘いなどを断り、資料室で過去の在籍者情報を漁っていった。薄暗い灯りの下で、その記録を一つ一つ丁寧に調べ、メモをしていく。
そこには、かつて無念の思いで去っていった団員たちの名前や能力が、詳細に記されていた。
最初に会うべき人物は既に決めていた。
自分が入団するにあたって、弾き出された女性魔術士、『
平民出身で、わずか二年前に入団したばかりにも拘らず、あっさりと首を切られている。
しかし、記録によると欠損部位の再生が出来るなど、桁外れの能力を持っていることは間違いなさそうだ。
ただ、気になったのは「素行不良」の烙印。
ちゃんと会話が出来るだろうか……、若干の不安を覚えつつもアレクシスは彼女の居所を探すことにした。
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