☆19 セレスティアで家を建てる②
フィアが手配した職人たちは、さすがに一流のようだった。
俺の家はセメントで固められた石造りの平屋で、寝室と客間、台所とリビングに洗面所と風呂があるだけのシンプルな作りにしてもらった。
広いと掃除が面倒だからな。
家の側には大きめの物置もある。
基本、カグツチは放し飼いにする予定なので、犬小屋は作らなかった。
で、何故か俺の家のすぐ真横にエリシアの豪華なお城のような屋敷が建設中である。
いつ完成するんだろ、これ。
外観からして俺の家とは全然違うからまだまだかかりそう。
俺との格差を示すかのように、俺の家の十倍以上はある。
別荘ということだから、日常使いすることも無いんだろうに、維持とかどうすんだろう。
てか、何でこんだけ土地があるのに、わざわざこんな近くに建てるかね.....俺の家が犬小屋みたいに見えるだろ.....。
カグツチは俺のマナだけでなく、この緑豊かな自然のどこからか湧き出ているマナを吸収できるようで、俺が不在の間でも餌に困ることは無さそうだった。
とりあえず、ダークエルフの集落を出て三か月ちょいか。
当初想定していたよりはずっと早く、自分の城を持つことが出来た。
ただ、土地はローンにしてもらったにしても、家やその他諸々の生活基盤の資材は有り金で支払ったので、手持ちには金貨一枚と銀貨数枚しか残っていなかった。
う~ん、近日中にまた依頼を受けないとダメだろうな。
ソファの上でカグツチと遊びながら、そんなことを考えていると、ノックもせずにエリシアが家にずかずかと入ってきた。まるで遠慮が無い……。
自分の家のようだ。
「ソウタ、私は少しの間、国に戻ることになりました。なので貴方は次の冒険に出るまで少しゆっくりしていて下さい。細かいことを制限するつもりはありませんが、貴方は暫く、私との専属契約にあることを忘れずに行動して下さい。」
あぁ、そうだった……。
てか、いくら払えば満了になるのか教えてもらってないんだけど……。
「了解。そっちが戻ってきた時にはいつでも出発できるように準備はしておくよ。ただ、俺も生活してくためには金が必要だから、雑用程度の依頼なら引き受けても良いだろ?」
エリシアは少し考えこむと、
「そうですね。あまり危険でないのであれば良しとします。私も国に戻っている間、アグニの能力を最大限に引き出せるよう、修業をします。次に会う時には貴方を驚かせることが出来る位には。」
そうして翌日にはエリシアはお供の二人を連れて、国へと帰っていった。
何か久々に自由になった気分だ。
開放された感じ。
さて、どうすっかな。
街に食材でも買いに行くがてら、久しぶりにギルドに顔でも出して、良さげな依頼でもないかチェックしてみようかな。
俺はカグツチの散歩も兼ねて、エルドラへと向かうことにした。
◆◆◆
街は相変わらず賑やかだった。
至る所から、客を呼び込む商人たちの活気の良い声が響いてくる。
石畳の歩道をのんびり歩きながら、まずはギルドへ立ち寄った。
「おい、あいつ……」
「あれ、ソウタ・アマギだよな?」
何やらひそひそと俺を噂するような会話が聞こえてくる。
ギルドに登録した日を思い出す。
数回した来たことないのに何で俺の顔知ってるんだよ。
指名手配犯的な写真でも出回ってるのか?
構わず、俺は受付嬢に依頼のリストをお願いする。
そそくさと紙を選別しながら、受付嬢は話しかけてくる。
「大活躍してるみたいですね、アマギさん。」
「ん? どういうことすか?」
「あのリリス・スターシーカーさんと共著で『南の大穴』の地図を完成させたじゃないですか!」
そういえば、地図を作るとか言ってたけどもう完成してたのか。
さすがSランクは仕事が早い。
にしても俺の名前まで入れてくれるとは律儀だな。
「いや、俺なんて全然役に立てなかったので、そういう扱いは恥ずかしいっす……。」
事実だから仕方ない。
もっと精進せねば。
「ふふ、謙遜しないでください。では、アマギさんにはこちらをお渡しします。引き受けたい依頼がありましたら、またこちらまでお越し下さい。」
受付嬢はにっこり笑って、紙の束を差し出してきた。
俺はそれを受け取ると、空いてるテーブルで確認することにした。
上からペラペラとめくってみる。
『北方のフィンディア帝国までの護衛』 銀貨七十枚。
条件はいいけど、でも遠いよなこれ。
う~ん、エリシアがいつ帰ってくるか分からんから却下だな……。
帰ってきた時に俺がいないと怒られそうだし。
てかいつ帰ってくるのか聞き忘れたな、そういえば。
『ファルナ村のゴブリン退治』 銀貨十五枚。
ゴブスレさん呼んでますよ?
てか、この世界にもゴブリンているんだな。
臭そうだから却下。
『近くの秘境に住むお爺さんに荷物を届ける』 銀貨十枚。
悪くは無いけど、方向音痴だからな、俺。
一人で行けるか不安。戻ってこれないかも。
保留。
その後も似たような依頼書が続き、どれもパッとしないな、と思っていると、
『猫の譲渡。Aランク以上の冒険者限定』 金貨一枚。
娘が可愛がっている子猫ですが、諸事情によりこれ以上飼えなくなりました。
責任を持って育てることが出来る方にお譲りします。
ん、めっちゃ良くねこれ?
カグツチの遊び相手になるかも。
とりあえず話だけでも聞いてみるか。
Aランク以上限定とか、これがAランクの特権てやつか。
やはり社会的信頼度が高いんだろうな。
俺はさっそく受付嬢の元へ戻り、この猫ちゃんの依頼を受けることを告げた。
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