第二章 スローライフを目指してみよう編
☆18 セレスティアで家を建てる①
元々、田舎の方に家を建ててのんびり暮らしたいと思っていたが、カグツチを飼うことになったのでますます市街地の近くは無理だ。
こいつ、大人になったら体長2メートル以上になるだろうし、それ以前にヘルハウンドは危険すぎる魔獣だろう。
ただ、ギルドから遠すぎるとそれはそれで不便だ。
首都のエルドラから近すぎず遠すぎずで、などと思いを巡らせていると、ふと気づいた。
「家を建てると言っても、土地はどうやって買えばいいんだ?そもそも住宅着工許可とか必要なのかな?」
セレスティアの領主様にお伺いを立てるのか?
それとも地主みたいな人と交渉するのだろうか?
カグツチの世話をしながら、これからの生活を思い描いていると、次第に不安と期待が入り混じった気持ちになってきた。
「都会ならまだしも、田舎だったら土地さえあれば、とりあえず好きなように立てられるだろう。まぁ、その土地を買うってのが一番厄介になるだろうが。」
ぶっきらぼうながら、ガルドが教えてくれた。
昨日、無事にエリシアを連れ帰ったことで、こいつの俺に対する敵意は若干薄まったのを感じる。
「相場も分からないんだけど、昨日リリスに貰った分を合わせて金貨十五枚分もあれば足りるかな?」
金貨十五枚だから日本円で千五百万円くらい。
どうなの?
「家と土地だったら、足りるだろうな。ただ、」
そう言って、ガルドは視線を上に向けて考えを巡らせている。
「生活の基盤となるインフラ設備とその維持、水道とか光熱とかの魔道具、家具とかも買うとなると倍くらいは必要だろう。」
マジかよ!
前回今回みたいなおいしい依頼なんて滅多にないわけだろ?
どうすんだよ、そんな金、貯まる前にカグツチはでっかくなっちゃうよ。
宿にも泊まれないだろ……。
途方に暮れて、呆然としていると、エリシアがにっこり微笑んだ。
「私もセレスティアに別荘を持ちたいと思っていました。私が購入する土地の一部を貴方にローンでお譲りしましょう。これからも私の冒険にお付き合い頂くことで、その報酬の一部を天引きさせて頂く、という形でどうでしょう?」
「エリシア様、初耳なのですが……。」
フィアがため息をつきながら口を開いた。
「あら、セレスティアの自然、特にエルドラ近くの湖辺りは、貴方も気に入っていたじゃない。」
「それは、そうなのですが……。」
「なら、決まりね。戻ったら早速、手配をお願いね。」
フィアはガルドと顔を見合わせ、渋々ながらも了承の意を示した。
エリシアが言い出したら聞かないことを誰よりも理解しているのだろう。
◆◆◆
セレスティアに戻るころには季節は秋となっていた。
この帰りの一ヶ月半の間に、カグツチは俺のバックパックには収まり切れない程の大きさになっていた。成長が早い……。
道中の宿では、ちょいちょい入室を断られ、敷地内の馬小屋などに繋がれることもあった。それでも、むやみに吠えることは無く大人しくしていてくれた。
その赤い瞳が珍しいのか、宿泊客にも可愛がられ、何の犬種なのかと度々聞かれたが、ヘルハウンドですなどと言えるわけもなく、ただの雑種です、と誤魔化していた。
エルドラに到着すると、フィアはすぐに諸々の手続きを進めるために動き出した。彼女は領主や職人たちと会うための準備を整え、忙しそうに書類を整理していた。
すまん、宜しく頼む。
彼女は事務作業に慣れているようで、契約の手続きを一人で迅速に進めていた。
そして数日後にはエリシアを同席させ、契約の締結にまでこぎつけるほどだった。
正直、フィアのことを若干見下していたが、態度を改めることにした。
エリシアが購入した大地は、湖のほとりに広がる美しい草原や、木々が生い茂る森、そして小川が流れる静かな谷間まで含まれていた。
エルドラまでは馬車で十分ほどの距離で、徒歩だと一時間くらいかかるだろうか。
どこら辺までが買った土地なのか尋ねると、ここから見える場所は全部と言われ、度肝を抜かれた。
しかも街道の整備もするらしい。
いくら位かかったんだよ……。
恐る恐るフィアに尋ねると、あんたが人生何回繰り返しても払えない金額よ、と呆れたように教えてもらった。
「ソウタ、これ位の土地があれば、カグツチが大きくなっても好きなだけ遊ばせることが出来るでしょう?」
エリシアはドヤ顔で言ってきた。
「俺が必要な分の土地はほんの一部だけだから、それ以外の土地の金は払わないからな……。」
「分かってます。カグツチが私の土地に遊びに入ってきても怒りません、ということです。」
エリシアは笑顔を浮かべて、返してきた。
俺は心の中でため息をついた。これからローンを支払い終わるまで、どれくらいの冒険に付き合わされることになるんだろう。
自由になったはずが、逆に自由が遠ざかったような気がして、何とも言えない気分になった。
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