☆17 闇の奥へ⑥
帰りの道中も結構しんどかった。
え?こんなに歩いてきたの??って思うほどの距離だった。
リリスが残した目印が無ければ、いつまでも彷徨ってたと思う。
俺、方向音痴だし。
途中、何度か魔獣に襲われたがリリスが事も無げに撃退してくれて助かった。
ガルドだったら瞬殺されてたと思う。
めっちゃ強い、この人。
俺は右肩がまだ痛かったのでエリシアを守ることに専念していた。
「なんか、すんません。あんまり役に立てなくて……。ワイバーン一匹倒しただけとか。」
「いや、充分だよ。ここまで魔獣があまり襲ってこなかったのは、君のマナが私のと合わさって威嚇になっていたからね。私だけだと次から次へと襲ってこられてキリが無かったはず。」
リリスはにっこりと微笑んだ。
「おかげで最奥への道までの地図は完成する。今後、この地図を灯にして、多くの冒険者が最奥の謎を解きに来るだろう。……最もその危険を瞬時に理解することのできない者は、今までと変わらず戻ってこれないだろうがね。」
何度か休憩を取って、大穴の外に出ると、日差しが眩しかった。
外ではガルドとフィアが律儀に待っていたようで、エリシアの姿を確認すると、一目散に駆け寄ってきた。
そんな様子をどこか他人事のように遠くに感じて、俺はやっと外に出れたのか、と安堵を感じると、こんな眩しさの中でも猛烈に眠気が襲ってきた。
「お帰りなさいませ、エリシア様!! お怪我などはございませんでしょうか?」
心配そうにフィアがエリシアの体を確認する。
彼女の目には、深い安堵と心配が入り混じっていた。
「ありがとう、大丈夫よ。約束通り、ソウタが私を守ってくれたので。」
エリシアは微笑みながら答え、何だか真っすぐな熱い視線を感じたが、俺は猛烈な眠気が襲ってきて、そっちを見るのもだるかったので、ただ大きなあくびで返した。
「わたしが撤退してから、丸一日以上、経過しておりましたので心配で、心配で……。」
フィアの声は涙交じりのようだった。
「さて、約束の報酬だ。君とはまた探索をしてみたい。ここのリベンジはもちろん、別の秘境でもね。」
リリスは微笑みながら言い、俺に金貨三枚を手渡した。
金貨は太陽の光を反射して輝き、手のひらにずっしりとした重みを感じた。
俺はありがたくそれを受け取ると、リリスは更に荷物袋をまさぐり
「これの光ってないボタンのどれかを君のマナを込めながら押してくれるかな?」
と言って、何かの紋章が描かれた電卓みたいなものを渡してきた。
小さなボタンが二十個くらい付いている。
様々な色で発光しているボタンと、何も反応が無いボタンがある。
言われたまま、俺はボタンを押し、マナを込めてリリスに返す。
「相手のマナが込められたボタンを押しながら自分のマナを込めると、これを通じて遠く離れていても会話をすることが出来る。」
リリスは更に鞄から新品と思しき、発光してるボタンが一つも無い、同じような魔道具を取り出すと、左上のボタンを押し、マナを込め、発光させると俺に渡してきた。
「君は持ってないだろう? ペアになってないと意味が無いから、これをあげる。私から連絡が来ると、この赤いボタンが反応する。数が多くなると誰がどのボタンか分からなくなるから、下に名前を書いておいて。」
なるほど、携帯電話みたいなものか。
「では、また会おう。次に会う時はどれ位、成長しているか楽しみだ。」
そういってリリスは別れを惜しむことも無く、あっさりと、軽やかにこの場を去っていった。また明日にでも会えるかのような気軽な感じで。
やっぱり思ってたより、この世界は文明が進んでいる。
田舎の町でも普通に電気や水道があるし、生活の基盤がしっかりしている。
原理はよく分からないが、この魔道具のように、色々とマナを活用しているのだろう。
そんなことより、とりあえず眠さが限界だ。
俺は一日八時間くらい寝ないとダメな体質なんだよ。
フィアが手配してくれた宿に急いで向かい、三人を置き去りにする勢いで受付に駆け込んだ。鍵を受け取ると、すぐに服を脱ぎ捨て、ベッドに倒れ込んだ。
ふかふかのベッドが気持ちいいと感じた瞬間、もう眠りに落ちていた。
◆◆◆
翌朝、自分の腹の鳴る音で目が覚めた。
シャワーを浴びると、マナによる自然治癒で傷跡はもう無くなっていたが、右肩の痛みが滲み出てきて、昨日の出来事が夢ではなかったことを改めて実感した。
服を着替えて食堂に向かうと、エリシアたちはすでに食事を終え、食後のコーヒーを楽しんでいた。
「やっと起きたのですね。あまりにも遅いから起こしに行こうかと思ってたところでした。」
エリシアが呆れたように言う。
壁時計を見ると、十時半くらいになっている。
「いやぁ、昨日はマジで疲れたからな……。でもぐっすり眠れたおかげで完全に回復したよ。」
「右肩の具合はいかがですか?」
そんな俺の言葉に反応して、エリシアは心配そうな目で俺の右肩を見つめた。
「いや、全然大丈夫。ほら、この通り。」
と言って、俺は肩をグルグル回す。
「それなら良かったです。」
エリシアは安堵の息を漏らす。
ぶっちゃけまだ痛かったが、心配されて気を遣われるのも鬱陶しい。
飯を食い終わると、今後の予定について話をすることになった。
てか、俺はまだ解放されないの?
「エリシア様、我々は一旦お国に戻りましょう。アグニとの契約も出来たことですし、今回の冒険の目的は達成できたはずです。また次の旅に向けて英気を養いましょう。」
ガルドはまるで駄々っ子をあやすような感じでエリシアに提案した。
「ソウタ、貴方はどうするつもりですか?」
ガルドの言葉を無視して、俺に尋ねる。
う~ん、どうしようか。カグツチもいることだし、とりあえず少し落ち着きたい気持ちがある。
「そうだなぁ。とりあえずセレスティアに戻って家を建てたい。」
「家???」
俺の言葉が意外過ぎたのか、エリシアだけじゃなく他の二人も同じように驚きの声を上げた。
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