☆14 闇の奥へ③
「お前は自分が何を言ってるのか分かってるのか??」
ヘルハウンドの子犬を抱えて、エリシアたちが休んでいる場所に戻り、この子を飼うことにした旨を告げると、ガルドは呆れたようにため息をつきながら言った。
「エサはマナなんだろ?これから馬鹿でかくなったとしても、俺のマナで十分に育てられるはず。」
こんな可愛い子を置き去りにすることなんて考えられない。
ダークエルフが俺を拾ってくれた状況と同じだ。
前世でも犬を飼ってたし、躾には自信がある。
何とかなるだろう。
子犬の赤い目が不安そうにこちらを見上げているのを見て、俺は決意を固めた。
この子を守り、育てることができるのは俺しかいない。
「ふふ。貴方はやっぱり私たちとはスケールが違うのね。ヘルハウンドを飼うだなんて発想、普通の人には到底思いつかないでしょう。マナを糧に育つ魔獣がどう成長するかは、吸収するマナの影響を受けると聞きます。貴方のマナであれば悪い子にはならない気がします。」
エリシアは若干呆れながらも微笑んで、感心したように頷いた。
「エ、エリシア様、笑ってる場合では……おい、この洞窟から出た後は、我々の管轄外になるだろうが、くれぐれも周りに迷惑を掛けるんじゃないぞ!」
ガルドの小言を無視して、子犬の名前を考える。
闇の中の炎から連想するもの……、前世でやってたパズ〇ラで、闇と火の両方の属性を持ってたのは何だっけ?
そうだ、カグツチだ!
「よし、今日からお前の名前はカグツチだ!」
俺に抱かれながらマナを吸収し、すっかり満腹になって落ち着いたのかカグツチはうとうとしていたが、そのまま眠りについた。
小さな体が穏やかな呼吸を繰り返し、微かな赤い光が周りに漂っていた。
◆◆◆
エリシアもある程度回復したところで、更なる奥へ進むことにした。
巨大なヘルハウンドの群れを丸々養えるような禍々しいマナが溢れ出している方向へ。
直感的にここから先はヤバいんじゃないかということを感じていた。
南の大穴。
その最奥へ挑み、戻ってきた者はいないというのは、恐らくこの先のことを指しているのだろう。現に案内所で貰った地図はここから先の情報が殆どない。
何か先の方へ行くともっとだだっ広い空間があるらしい位の粒度だ。
カグツチを抱きしめる腕に自然と力が入る。
俺たちは無言のまま、広大な空間を抜ける細い道を進んでいく。
冷たい空気が漂い、不快なマナが肌にまとわりつく。
すると突然、前方に何かの気配を感じた。
それは足音を響かせ、こちらに近づいてくる。
「あ、ここまで来れるパーティがいたんだね。」
俺たちに近づいてきたのは人間だった。
暗闇の中で、わずかな光に照らされる中、燃えるように赤い髪を持った女性剣士だった。そして、そのマナはとてつもない輝きを放っていた。
立ち居振る舞いを含め、俺たちとはレベルの違う冒険者だとすぐに理解した。
彼女は鋭い目つきで周囲を見渡しながら、話しかけてくる。
その動きは無駄がなく、まるで風のように軽やかだった。
「ここから先は危ないから、引き返した方がいい。私も三日位、粘ってみたけど、どうにも糸口が見いだせなくて。道も分岐していて迷子になりかねないし。」
と、その冒険者は低い声で言った。
その声には疲れと共に、深い経験に裏打ちされたかのような重みを感じ、その言葉には、ただの警告ではなく、真剣な忠告が込められていた。
その青い瞳と目が合った。
彼女の視線は鋭く、俺を値踏みするかのようにじっと見つめてくる。
「ん? 君、凄いマナを持ってるね。」
彼女は驚いたように言った。
「ポテンシャルだけならSランクに匹敵するかな? 全く洗練はされていないけど……そうだな、君がいればもう少し先まで行けるかも。」
俺の実力を見定め終わったのか、ぶつぶつ独り言のようにそう言うと
「私の名前はリリス・スターシーカー。君の名前を教えてくれる?」
「ソウタ・アマギっす。」
ちょっと戸惑いながら横を見ると、二人とも呆然としている。
「リリス・スターシーカー……、Sランク冒険者の……」
ガルドが声を絞り出す。
え?そんな有名人なの?
てか、こいつ、人間を下に見てるんじゃなかったのかよ。
Sランクともなれば話は違うのか?
そんな二人を気にも留めず、リリスは俺に向かって言った。
「私に雇われる気は無い? この奥の地図を作ってるんだけど、君が協力してくれれば大分完成に近づけるかも。」
お、金をくれるの?
ここまでただ働きをさせられてるような気がして、ちょっと悶々としてた俺には渡りに船だ。刺身を食いに島に来ただけなのに、いつの間にかこんなとこまで連れ回されてるわけだしな。
「いくらで? 俺は高いぜ。」
値切られることの無いよう、一応、牽制をかましておく。
「金貨三枚でどう?」
「引き受けます。宜しくお願いします。」
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