☆12 闇の奥へ①
南の大穴への旅路は思ってたより全然長かった。
ガルドとフィアの態度は相変わらずだ。
むしろ俺に対する敵意が増してる気がする。
南へ下るにつれ、気温も高くなり、馬車の中も暑苦しくなった。
窓の外には、青々としたヤシの木が並び、遠くにはエメラルドグリーンの海が広がっていた。南国特有の鮮やかな花々が道端に咲き乱れ、色とりどりの鳥たちが楽しげに飛び交っている。
途中からエリシアの召喚した風の精霊シルフが車内に風を運んできてくれたので、多少は暑さもマシになった。そして、古代遺跡の最寄りの街を出発してから二十日ほど経って、ようやくその島へ辿り着いた。
「おお、すげぇ……」
全てを飲み込むかのように大きな口を開けているその巨大な穴を見て、俺はありきたりな言葉しか出てこなかった。
数多の冒険者たちを飲み込んできたという暗黒。
まぁ、今回、俺は中に入るつもりは無いしな。
とりあえず刺身が食いたい。
大穴の近くには観光客用と思しき店や屋台が賑わっている。
新鮮な魚介類を売る店や、香ばしい匂いを漂わせる焼き物の屋台が並び、大勢の人たちが楽しそうに食べ歩きをしている。
俺もその一員になって、まずは腹ごしらえをするとしよう。
「想像を超えるような大きさね……。ガルド、フィア、持ち物は大丈夫かしら?」
踵を返そうとしたタイミングで、エリシアが二人に確認する。
それぞれ大きな荷物を背負っていたが、その中身を念入りに確認すると、二人とも頷き、緊張した表情で準備は万端だと示す。
エリシアは満足そうに微笑み、再び大穴の方へと視線を向けた。
「では、行きましょうか。どこまで行けるかしらね。」
ん?
俺は行かなくて良いんだよな?ここから先は別行動だよな??
俺は一向に背を向けて屋台の立ち並ぶ方へ歩き出し、観光客たちの賑わいに紛れ込もうとしたその瞬間、背後からエリシアの声が響いた。
「ソウタ、何か忘れ物でもありましたか?」
振り返ると、エリシアが不思議そうな表情でこちらを見ていた。
「え??俺も行くの???」
「この大穴に挑むつもりでここに来たのでしょう?」
「いや、刺身を食ってビーチでのんびりするだけのつもりだったんだけど……」
俺たちはしばし無言で見つめ合った。
エリシアの目には、ちょっと苛立ちが見え隠れしていた。
「その冗談は面白くないわね。さ、行きましょう。」
おいおい、ちょっと待て!
これって報酬は無いんだよな?
有無を言わせぬ感じで、エリシアは俺の腕を掴むと、その暗闇へと引きずり込んでいった。その手の意外な力強さに驚きつつも、抵抗する間もなく足を踏み出す。
暗闇の中に足を踏み入れると、周囲の温度が一気に下がり、冷たい空気が肌に触れる。足元の石が冷たく硬い感触を伝えてくる。
洞窟の奥へと進むと、微かな光が見え始め、やがて案内所のような場所に辿り着いた。
そこには、古びた木製のカウンターがあり、背後には地図や注意書きが貼られた掲示板が見える。カウンターの向こうには、厳しい表情をした案内人が立っており、こちらに視線を向けている。
「ここから先は、Aランク以上の冒険者のみ進むことが可能です。」
案内人は低い声で告げる。
「ギルドカードを見せて頂けますか?」
その目は鋭く、まるで俺たちの実力を見透かそうとしているかのようだった。
洞窟の奥からは、時折不気味な音が響いてくる。俺たちはカードを提示したが、フィアはリュックからカードを取り出すも逡巡していた。
どうやら彼女はBランクのようだった。
「残念ですが、あなたはここでお引き取り願えますか?」
「で、でもわたしはエリシア様の」
フィアが言いかけたところで、エリシアが諭すように話しかけた。
「大丈夫よ。そんなに奥まで進むつもりはないから。危険を感じたらすぐに引き返すから、宿で待っていて頂戴。」
フィアは不安そうにエリシアを見つめたが、ガルドはフィアの肩に手を置き、優しく励ますように言葉をかけた。
「そうだ、いざとなったら俺が力ずくでも撤退させるから安心して待ってろ。エリシア様がこんなとこであっさり帰るわけないのは十分承知だろ……。」
フィアは少し安心したようにうなずくと、俺に鋭い目線を向けて警告した。
「人間。エリシア様にくれぐれも粗相のないように気をつけなさい。もし、そのお体に傷の一つでもつけようものなら」
その言葉を遮るように、エリシアが穏やかな声で話し始めた。
「フィア、大丈夫と言っているでしょう。心配なのは分かるけれど、今の私はアグニの力を借りることも出来ます。あまり私の実力を見くびらないでほしいわ。」
フィアは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに頭を下げて謝罪した。
「も、申し訳ございません。それではくれぐれもお気をつけていってらっしゃいませ……。」
エリシアは優しく微笑みフィアに背を向けると、闇の奥へと足を進め、俺たちもその後に続いた。
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