★3 銀狼守護団

 十五歳になったアレクシスは学院を首席で卒業した。


 入学してから三年ほどで、学ぶべきことはすべて習得してしまった。

 その後は、ひたすら己のマナと向き合い、使いこなすことに専念した。

 首席の特権として、エリート中のエリートである国王直属軍、通称「銀狼守護団」に入団する権利が与えられた。


 この直属軍は、王国内で数万人にも及ぶ職業軍人の中から選ばれたわずか百名のみで構成されている。新たに入団する者がいれば、既存のメンバーの中から押し出される者が出るため、常に厳しい競争が繰り広げられている。


 入団後も、己の鍛錬に決して手を抜くことは許されず、過酷な訓練と競争が待ち受けているのだ。


 銀狼守護団の宿舎は広大な王宮の一部に位置しており、その存在感はまるで一つの城のようだった。外観は壮麗で、石造りの壁や高い塔がそびえ立ち、まるで歴史ある要塞のような威厳を放っている。


 内部に足を踏み入れると、武骨ながらも広々としたホールが迎えてくれ、控えめなシャンデリアが天井から淡い輝きを放っている。

 壁には精緻なタペストリーが掛けられ、床には柔らかな絨毯が敷かれている。


 アレクシスに割り当てられた部屋もまた、その豪華さにおいては彼の生家と全く遜色がない。部屋の扉を開けると、まず目に飛び込んでくるのは広々とした空間と、豪華な家具の数々だ。

 大きな窓からは王宮の庭園が一望でき、自然光が部屋全体を柔らかく照らしている。ベッドは天蓋付きで、絹のカーテンが優雅に垂れ下がっている。

 壁には美しい絵画が飾られ、床にはふかふかの絨毯が敷かれている。


 さらに、部屋には専用の書斎や浴室も完備されており、どちらも贅を尽くした作りだ。書斎には高級な木材で作られた書棚が並び、数々の貴重な書物が収められている。浴室には大理石の浴槽があり、温かい湯がいつでも楽しめるようになっている。


 このように、銀狼守護団の宿舎は、ただの住まいではなく、彼らの誇りと名誉を象徴する場所でもあった。


 アレクシスは期待に胸を膨らませ、王城での入団式を迎えた。

 広間には厳かな雰囲気が漂い、胸の高鳴りが一層強くなるのを感じた。

 同期は他に二名いて、学院卒業後すぐに入団したアレクシスを新卒とするなら、他の二名は中途に当てはまるだろう。


 二人とも二十代前半だろうか。

 その姿は堂々としており、若いながらも経験豊富な風格を漂わせ、また、マナも強烈な輝きを放っていた。一目で只者ではないということが分かる。


 式の最中、王より直々に激励の言葉を掛けられたが、その言葉は形式的で、どこか空虚な響きがあり、何よりアルコールの匂いを漂わせていることが気になった。


 期待が高すぎたのかもしれない、とアレクシスは少しがっかりしたが、式を終えると早速、二人に話しかけられた。


「アレクシス、これから宜しく頼む。しかし、噂には聞いていたが、本当に規格外のマナだな……。」


 黒髪で背が高く、引き締まった体をしているダリウスだった。

 彼の鋭い目はアレクシスを観察するようにじっと見つめている。

 呆れ半分の表情ではあったが、その目には興味と警戒が混じっていた。


「噂とは? 自分の知らないところで何か言われるのは、あまり気持ちいいものではないですね。」


 アレクシスは苦笑して返した。

 声には軽い調子が含まれていたが、その目はダリウスの反応を注意深く見守っていた。


「王国始まって以来の天才だとか。学院に入学した時点で既に教師の才を超えていたと聞く。」


「それは大げさすぎますよ。」


 アレクシスは肩をすくめて笑ったが、その笑顔には謙遜の色が見えた。


「いや、大げさとは思えないね。私も最初、噂に尾ひれがついて半分冗談のような話に変質しただけだろう、と気にも留めていなかったが、認識を改めることにしたよ。恐らく、次の団長候補筆頭になるだろうさ。」


 もう一人の同期、ハリドが口を挟む。

 小柄で華奢な彼は、魔術師の特性を持っているようだった。

 彼の目は知識への渇望と好奇心で輝いているように思えた。

 ハリドはアレクシスに一歩近づき、興味津々といった表情で続けた。


「実に興味深い。今度君のマナを調べさせてもらえないかな?」


「いやいや、もっと有意義なことに時間を使ってください。」


 ハリドは笑いながら肩をすくめた。


「そう言うなよ。君のマナには何か特別なものを感じるんだ。まあ、いつか機会があれば、ということで。」


 学院では、こんな風に気軽に話しかけられたことは一度も無かった。

 生徒はおろか教師までもが、アレクシスを腫れもののように扱い、たまにあった会話はあくまで上辺だけの業務連絡程度だった。


 アレクシスは新しい世界へ飛び込んだということを少しずつ実感し始めた。

 ここでは、彼を特別扱いすることなく、対等に接してくれる優秀な仲間がいるのかもしれない。


 この先の生活が今までとは違い、楽しいものになれば良いなと、そんなことを思った。

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