☆11 次なる冒険へ
召喚士の契約の儀式は驚くほど簡単だった。
エリシアが差し出した指輪に、アグニが自ら吸い込まれるように入ると、その指輪は一瞬、爆発するかのような赤い光を放ち、アグニの姿は消えた。
その指輪には特別な魔力が宿っており、金貨5枚分の価値があるという。
儀式が終わるころには、ガルドとフィアもようやく目を覚まし、二人とも頭痛をこらえるようにこめかみを押さえていた。
「さて、じゃ後は帰るだけでいいのかな?」
「そうなのだけれど、まだ二人が回復しきっていないので、ここで少し休憩させてもらえるかしら。」
エリシアが放出したマナの光で周囲は多少照らされているが、こんな薄暗いとこで休憩とか逆に気が休まらん気がするけどな。
外の方が良くない?
「その間、貴方とアグニとの間にあった出来事を教えて頂けますか?」
エリシアは、琥珀色の瞳をじっと俺に向けて問いかけてきた。
その瞳には、好奇心の色が混ざっていた。
「あー、別にそんな複雑なことはなくて、契約したいなら力を示せとか言ってきて、いきなり炎の塊を投げつけてきたから、俺のマナで掻き消してやって、で、反撃したら、力を認めてくれたらしい。」
俺は肩をすくめながら答えた。
エリシアは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑んで頷いた。
反転能力のことは黙っておいた。
自分の能力は隠しておけだっけ?
ハ〇ターハン〇ーでそんなこと言ってた気がするからな。
「はっ!白々しい嘘をつくな。お前ごときの力がアグニに認められるわけないだろう?どうせ何か小賢しいやり取りでもして言いくるめたんだろうが。」
ガルドが苛立ちを隠せない口調で吐き捨てる。
アグニの姿を見る前に気を失ってしまった自分のふがいなさを責め、八つ当たりをしているようだ。
「ガルド、黙りなさい。」
エリシアの声が静かに響く。
彼女の目はガルドを鋭く見据え、その一言で彼の怒りを鎮める力があった。
「ソウタ、貴方のマナのその強さ、輝きは貴方の言うことを信じるに値します。私たちだけではどうしようもなかった。改めてお礼を言わせて下さい。本当にありがとう。」
エリシアは深々と頭を下げてきた。
その姿からは誠実さと本物の感謝の気持ちが感じられた。
「エリシア様!! 人間ごときに頭を下げるなどお止めください!!」
フィアが血相を変えて叫ぶと、エリシアは鋭い目つきでフィアを睨みつけた。
いや、もうこいつらの差別には慣れたからいいんだけどね。
「気にすんなよ。俺は依頼された仕事をこなしたまでだ。」
そう、金貨十枚の為にちょっとばかし頑張っただけだ。
むしろ自分のマナの特性に気づかせてくれる機会を与えてくれたことに感謝したいくらいだ。
◆◆◆
地上へ戻ると、外はもう真っ暗だった。
星々が夜空に輝き、月明かりがかすかに道を照らしていた。
俺たちは馬車に乗り込むと、来た道を戻り、昨晩泊まった宿屋へ向かった。
馬車の中では、疲れがまだ抜けないのか皆黙ったままだったが、エリシアだけは違った。彼女はアグニを取り込んだ例の指輪をうっとりと眺めていた。
それは微かに赤い光を放ち、馬車の中を幻想的な雰囲気に包んでいた。
エリシアの瞳には、まるで宝石を見るかのような輝きが宿り、その表情には、達成感と新たな力を手に入れた喜びが溢れていた。
翌朝、宿屋の食堂で一行と合流し、朝飯を食った。
ぐっすり眠ることが出来たのか、三人ともスッキリとした表情をしている。
朝の光が差し込む食堂は、活気に満ちていた。
「ソウタ、約束の報酬です。」
エリシアから上品な小袋を渡された。
その袋は美しい刺繍が施されており、手に取るとその大きさの割にずっしりと重い。
中を覗くと、金貨がぎっしりと詰まっているのが見えた。
あれ?
これ十枚以上あるんじゃね?
俺は驚きと共にエリシアに視線を向けると、彼女はにっこりと微笑んでいる。
その笑顔には感謝と満足の色が浮かんでいた。
「想定以上の仕事をして頂いたので、チップを弾ませてもらいました。」
おお! マジか!!!
ありがてぇ、ありがてぇ。
「それで、貴方の今後の予定はどうなっているのですか?エルドラまで一緒に戻りますか?」
「エ、エリシア様! 依頼は完了したのですから、もうこの人間と行動を共にする必要など」
フィアは早速文句をつけようとするが、エリシアに鋭く睨まれ、すごすごと引き下がった。もはやコントだろ、これ。
そういや次のことは全く考えてなかったな。
確かここから南に行けば南国のリゾート地があるとか聞いたことがあるような気がする。どうすっかな。すぐ戻るのもつまらんし、せっかくここまで来たんだ、遊びに行っちゃうか?
これだけ金があれば、多少豪遊したところで問題あるまい。
「いや、エルドラには戻らない。特に予定は無いけど南に行ってみるよ。どんな場所かもよく知らんけど。」
「南、というとソルディアね。楽園のような場所が多く、観光客で賑わってるわ。」
エリシアは説明を続ける。
「中でも『南の大穴』と呼ばれる孤島には観光客だけではなく、優秀な冒険者も集まり、新鮮な魚料理とそこでしか食べられない果実もたくさんあるらしいわ。」
マジか!
そういや魚なんて転生してから一回も食ってねぇわ。
焼き魚より刺身が食いたい。これは行くしかないだろ!!
ふむ、と暫くうつむいて顎に手をやり何事か考えていたエリシアだったが、やがて顔を上げて言った。
「『南の大穴』は一度行ってみたいと思っていたの。私たちも次の予定が決まっているわけでもないし、同行させて頂いても良いかしら?」
「エ、エリシア様!?」
まぁ別に構わないけど。
「別にいいよ、道案内してもらえるのは助かるし。」
あと、馬車や宿の手配をやってくれるのもね。
次の目的地は決まった。
南国の青い空と白い砂浜が俺を待っている。
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