☆8 炎の魔神アグニ①

 そんな感じの馬車での旅が2週間ほど続き、俺たちはようやく目的の地に着いた。


 道中、車中泊は一度もなく、毎晩、街の宿屋に泊まることができた。

 さすがにこの一行は金持ちで、どこも豪華な宿ばかりだった。

 宿屋の部屋は広々としていて、ふかふかのベッドや豪華な装飾が施されており、一人部屋を満喫することができた。

 宿屋の食堂では朝晩、どこも豪華な食事が用意されており、地元の特産品や珍しい料理を楽しむことができた。


 西の古代遺跡は、深い森の奥にひっそりと佇んでいた。

 巨大な石柱が並び、苔むした石畳が広がるその場所は、かつての栄華を物語っている。石柱には謎めいた古代文字が刻まれ、風化した彫刻がその歴史を静かに語りかけてくる。


 遺跡の中心には巨大な神殿がそびえ立ち、入口には二体の石像が守護者のように立っていた。奥へ進むと、中央の祭壇が現れる。祭壇には古びた黄金の器が置かれ、神秘的なマナが揺らめいている。


 質屋に売れば高く売れそうだけど、罰が当たりそうだな。


 エリシア達は何かを探しながら慎重に歩を進め、やがて地下へと続く隠し階段の蓋を探し当てた。


 すげーな。

 こんなの見ても他の地面との違いとか全然分からんわ。


「この奥ですね。」


 フィアが前方に小さなマナを放出し、光のランプのように周りを照らした。

 俺たちはその光に先導され無言のまま降りて行った。

 階段は古びていて、足元の石が時折きしむ音が響いた。

 冷たい空気が肌を刺し、背筋に寒気が走る。

 やがて階段を降りると、そこは広々とした空間だった。

 あちこちに何だか不気味な気配がするのは気のせいではないだろう。


「エリシア様、どうやらアンデットが潜んでいるようです。」


 先頭を歩いているガルドが、注意を呼び掛けた。

 その声は少しだけ緊張が滲んでいた。俺たちは立ち止まり、石壁に囲まれた周囲を見渡した。いくつかの影のような物体が俺たちを取り囲み、音も立てず、じりじりとにじり寄ってくる。

 影は不気味に揺れ動き、冷たい風が吹き抜けるたびにその輪郭がぼやける。


「ゴーストのようですね。」


 ガルドは剣を抜き、身構えた。

 緊張感が一層高まる中、影たちは徐々にその姿を現し始めた。


「お任せください。フィア、エリシア様をお守りしろ!」


 そう言うと、ガルドは影の群れに向かって走り出し、剣を一閃した。


 暗闇の中、青白い閃光が乱舞する。


 どうやら、剣をマナで強化しているようだ。

 見た目通り、身体能力強化系か。

 シュッ、ズバッ、シュッ、ズバッとリズミカルな音が響き渡る。

 へぇ、ゴーストにも物理攻撃が効くんだ。

 それともマナが効いてるのか?

 ガルドの動きは舞うように滑らかで、敵の攻撃を巧みにかわしながら、次々と反撃を繰り出していく。その剣技が一流であるのは素人の俺でも分かった。

 影は一つ、また一つと消えていき、やがて完全に消え去ると、ガルドは剣を収め、深呼吸を一つし、こちらへ戻ってきた。


「ひとまず奴らの気配は無くなりました。先へ参りましょう。」


 偉そうにしてるだけあって、なかなかやるな。

 奥へと足を進めるにつれ、禍々しい熱っぽいマナのようなものが濃くなってくる。

 空気は重く、肌にまとわりつくような不快感が増していく。


 やがて辿り着いた先は、重厚な扉で閉ざされていた。

 扉は古びており、長い年月を経て苔むしていたが、その威圧感は失われていなかった。ガルドは一瞬ためらったものの、力任せにその扉をこじ開けた。


 ギギギと不気味な音を立てながら、扉はゆっくりと開いていった。


 その先に広がっていたのは、大広間だった。

 装飾も何も無い、ただの広大な空間で、壁や床は古びた石でできていた。

 天井は高く、どこまでも続いているように感じられた。

 空気は一層ひんやりとしており、長い間誰も足を踏み入れていないことを物語っていた。


 その広間の中心には、異様に濃いマナが渦巻いている場所があった。

 まるで見えない泉から溢れ出しているかのように、そこから空間全体を満たしている。


「なんて禍々しいマナなのかしら……。では、始めますので貴方たちも集中してください。」


 そう言うとエリシアは地面に魔法陣のようなものを描き、何か詠唱し始めた。

 彼女の声は低く、力強く響き渡り、魔法陣が淡い光を放ち始める。


 え? もう始まるの??


「この魔法陣に向けて、貴方たちのマナを放出してください。」


「いやいや、ちょっと待って、アグニを呼び出してそっからどうすんの?」


 今にも炎の魔神を召喚しそうになってるエリシアに向けて俺は尋ねた。

 彼女の詠唱は一瞬止まり、ポカンとして俺を見た。


「呼び出して、私の話を聞いてもらって契約という流れになるかしら。」


「話を聞いてもらうって……いきなり襲ってきたらどうすんの?」


「黙れ、その時は俺の剣で分からせてやる。お前はマナを放出することにだけ集中しろ!」


 ガルドが凄みのある目で俺を睨みつけ、怒鳴りつける。

 こいつの自信はどっから来るんだよ。

 さっきのゴーストとは訳が違うだろ??


 本当に大丈夫かよ。

 どうなっても知らねえぞ。

 まぁいいや、いざとなったら俺は逃げるからな。


 俺たちは魔法陣に向けて全身からマナを放出した。

 やがてマナは赤黒く変色し始め、まるで生き物のようにうねりながら形を変えていく。


 すると、燃え盛る炎に包まれた巨大な何かが現れた。

 手には炎の剣を握りしめている。

 剣からは絶え間なく火花が散り、周囲には熱気が渦巻いていた。

 文字通り、炎の巨人のようなその姿は、圧倒的で、まさに獄炎そのものだった。

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