☆7 西の古代遺跡と魔神

 この世界で召喚される精霊は、例えば火属性ならサラマンダーやイフリート、水(氷)属性ならウンディーネやシヴァのように、前世で知っているような精霊が一般的に召喚されるらしい。

 これらの精霊は、近くでその雰囲気を感じ取り、自分のマナをそのイメージする形に具現化することで現れる。

 特殊な契約は不要だが、逆に言うと、周りにそういった精霊がいなければ召喚術は発動しない。


 で、一般的な精霊の上位に位置する存在は、召喚士と契約することで、召喚できるようになる。

 こういった上位の精霊は「魔神」とかの畏怖を込めた呼称で呼ばれる。

 上位精霊は一対一の契約しかできず、誰かが契約した上位精霊は他の召喚士は呼び出せない。そして契約した召喚士と共に行動するため、いつでも呼び出し可能だが、召喚する際はめっちゃマナを消費する。


 まぁそんな感じで非常に貴重な存在であるため、召喚士なら誰もが上位精霊との契約を目指すが、実際にはなかなか上手くいかない。

 ポ〇モンのレアカードのようなもんなんだろうと思えば、エリシアの気持ちも理解できた。コレクター魂みたいな感じで。


 そしてエリシアは、とある魔神が潜んでいる可能性のある場所の情報を手に入れていた。その魔神はかつて「炎の魔神アグニ」と呼ばれていて、西の古代遺跡を拠点に活動していたという。

 数万年前の神話の時代、この遺跡で神と戦ったアグニは敗北し、肉体は滅びたが、精神生命体として、魂はその場所に取り残されている、との伝承が細々と伝わっていたようだ。


 ……地縛霊かよ。


 俺たちは馬車に乗り、西へ向かった。

 馬車の後ろには風の魔力が封印された魔道具が装着されていて、常にブーストをかけているような感じで馬の走りを後押ししている。


 馬車の中は、予想通り気まずかった。

 ガルドともう一人のお供、フィアとかいう名の女エルフは俺に対する敵意を隠そうともしなかった。前世では外人と絡むことなんて無かったから知らなかったけど、人種差別ってこんな感じなのかな。

 俺が直接エリシアに話しかけることなんて、この雰囲気だと無理だった。

 てか、エリシアって何者なんだろう?

 そんなことすら聞ける雰囲気ではなかった。


 日が暮れる頃になり、小さな街に立ち寄った。

 中東とかイスラムっぽい感じの街づくりで、太陽が沈みかけている中でのその風景は、どことなく現実離れして見えた。


「エリシア様、今日はこちらで休息を取りましょう。」


 ガルドは周りの様子を注意深く伺いながら、そう伝えた。


「そうね。今日はこれ以上は進めないでしょうし。」


「飯も奢ってくれるんだよね?めっちゃ腹減って死にそうなんだけど。てか味が濃けりゃ何でもいいから死ぬほど食いまくりたい。」


 馬車に乗ってから何時間経っていただろうか。

 その間、携帯食みたいなのも貰えず、水しか飲んでないので空腹を抑えきれなかった。


「さすが野蛮な種族は下品極まりないわね。たかだかこの程度の時間、何も食べなかった位でそのようなことを言い出すとは。」


 フィアは軽蔑のまなざしで俺を見ながら吐き捨てる。


「あぁ?今の俺にとっては食欲が全てなんだよ。俺の力を貸してほしけりゃ、黙って美味い飯食わせろよ。」


 下品でも何でもいい。

 せっかくダークエルフの集落での変化のない精進料理の毎日を卒業できたんだから、馬鹿にされようと派手な料理が食いたい。

 肉とか塩を効かせたしょっぱい料理が死ぬほど食いたいんだよ。


「とりあえず肉だな。肉肉肉肉肉!!!!!!」


 フィアは心底、呆れたようにため息をついたが、飯屋が並ぶような繁華街に向かって歩き出した。


 暫くしてエリシアが入っても問題なさそうなお洒落な石造りの店内に入ると、すぐに香ばしいスパイスの香りが鼻をくすぐってきた。

 店の中央には大きな炭火焼きのグリルがあり、じっくりと回転しながら焼かれている肉の塊が目を引く。これは、この店の名物料理「シャワルマ」というらしい。


 俺たちは、木製のテーブルに座り、焼き上がったばかりのシャワルマを待つ。

 店主が笑顔で運んできたのは、薄くスライスされたジューシーな肉が何枚も挟まったふわふわのパン。

 パンの中には、フレッシュな野菜と特製のソースもたっぷりと詰め込まれている。

 一口かじると、スパイスの香りと肉の旨味、野菜のシャキシャキ感が口いっぱいに広がる。

 懐かしのサムライマックが脳裏をよぎり、無意識のうちに涙が頬を伝った。


 うめぇ……。


「おい、どうしたんだお前?」


 ガルドがギョッとした表情で俺に問いかけた。


「え? あれ? 俺泣いてる? なんだこれ?」


 頬を伝う涙を拭った。

 エリシアも怪訝な表情で俺を見つめるが、俺はなんでもないと泣き笑いで首を振った。


「いや、これが美味すぎてさ。感動したのかも。」


 店内の温かい雰囲気と、美味しい料理に包まれながら、俺たちはしばらくの間、言葉を交わさずに食事を楽しんだ。


 俺はサムライマックを五個食った。

 食べ終わる頃には、心も体も満たされ、マナとは違う新しいエネルギーが湧いてくるような気がした。俺にとっての旅の目的が出来た。


 とりあえず世界中の美味いもんを食いまくる。

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