☆6 エリシアとの出会い

 さて、無事に冒険者になったのはいいが、これからどうしようか。

 とりあえず、受付嬢から俺が対応できる依頼リストの束をもらった。

 リストを手に取り、空いてるテーブルに向かうと周りがざわざわと騒がしくなっているのに気づいた。俺を遠巻きに見て、こそこそ話しているグループがいくつもある。

 どうやら、俺がいきなりAランクに認定されたことが早速広まり、驚きと戸惑いが広がっているようだ。


 無理もない。

 登録説明会で聞いたところによると、全世界で何万人もいる冒険者の中でAランクは全体の1%にも満たないらしい。Aランクに認定されるには、並外れた実力と実績が必要なのに、初めて登録した俺がいきなりそこに位置付けられたんだから。

 ちなみに、Sランクは現時点で十人くらいしかいないらしい。


 う~ん、視線が鬱陶しいな。

 さっき頼んだ飯が届いたので、それを食いながら依頼書の束を見ていると、周囲の冒険者たちの視線がますます気になってきた。

 落ち着いて飯も食えない。

 相変わらずちらちらとこちらを見ながら、ひそひそと話し合っているのが分かる。

 俺をスカウトしたいけど、自分たちがそのレベルに見合っているかどうか自信がないのだろう。


 すると、全く気配を感じさせることなく俺に近づき、いかにも手練れの雰囲気を醸し出す奴に声を掛けられた。


「おい、貴様。」


 いきなり喧嘩腰かよ。

 顔を上げると、そこには大柄で筋肉質な体格の男が立っていた。

 短く刈り上げた金髪に鋭い目線が印象的だ。

 耳先は少し尖っている。

 エルフだ。

 エルフって華奢なイメージだったけど、こういうゴツい奴もいるんだな。

 革のジャケットに重厚なベルトを巻き、頑丈なブーツを履いている。


「あちらにおいでのエリシア様が貴様に話があるそうだ。ついてこい。」


 なんだこいつ?

 何でこんなに偉そうなの?

 顔を向けた先には、細身の体に、琥珀色の髪をしっとりと輝かせているエルフの女がいた。


 冒険者用の軽装を身にまとっているが、その装いからは上品さが滲み出ている。

 ただ者ではない気品と威厳が感じられた。


「用があるならお前の方からこっちに来いと伝えてくれ。」


「何だと貴様、誰に物を言っているか分かってるのか?」


 知らねぇよ。

 そんな感じで押し問答を暫く続けていると、痺れを切らしたのか、そのエルフの女がお供を連れて俺の席までやってきた。

 周りの男どもは、その美しさに見惚れ、鼻の下を伸ばしている。


「ガルド。うるさい。周りの方に迷惑でしょう。静かになさい。」


 その声は冷たく、鋭く響いた。


「も、申し訳ございません。下等な人間ごときに口答えをされたものでついカッとなってしまいました。」


 ガルドと呼ばれたそのゴツいエルフは、すぐにその場に跪き、頭を深く下げた。


「そこの貴方、名前は何と仰いますの?」


 琥珀色の瞳を細めて微笑みながら、俺に問いかけてきた。

 その整った顔立ちと優雅な仕草からは、エルフ特有の気品と魅力が溢れている。

 透き通る白い肌と長いまつげがその瞳をさらに引き立て、琥珀色の髪は室内の光を受けて輝いていた。


「エ、エリシア様。下等な人間の名前など覚えてはなりません!」


 エリシアの横に控えていた小柄な女エルフがうろたえながらエリシアを窘める。


 なんだこいつら。

 下等下等って。

 こっちの世界では人間はエルフの下なの?

 ダークエルフの集落ではそんな差別はされなかったぞ。


「ソウタだけど」


 まぁ向こうが折れてこっちまで来てくれたんだ。

 名前くらい教えてやる。


「ソウタ、そのリストの中に、貴方の興味を引くものはありましたか?」


「いや、全く。いくつか見たけど全然ピンとこない。」


「おい、貴様!!エリシア様に対して何だその口の利き方は!!身の程を知らぬというなら今すぐ叩き込んでやろうか!!」


 ガルドは、顔を真っ赤にして俺に襲い掛かる勢いで怒鳴りつけてきた。

 その目は怒りに燃え、拳を握りしめて震えている。


「ガルド、黙りなさい。」


「も、申し訳ございません。」


 ガルドは頭を下げた。

 その表情にはまだ怒りの余韻が残っていたが、エリシアの命令には逆らえないようだ。深く頭を垂れ、その姿勢を保ちながら、拳を緩めてゆっくりと息を吐いた。


「では、改めてソウタ。私の仕事を手伝う気はありませんか?そのリストの報酬全部合わせても足りない位の額を用意してあげます。」


 ほう。


「どんな仕事?」


 ちょっと興味を持ったので聞いてみた。


「私は召喚士で、世界中の強力な精霊と契約を結びたいと思ってます。でも、上位精霊と契約するのは私たちの力だけでは難しいのが現実。これでも一応Aランクなのですけれどね。最近、有力な情報を手に入れたので、ぜひ一緒に来て、協力をして頂けないかしら。」


 ふむふむ。


「で、具体的にその報酬はいくらになるの?」


「無事にミッションが成功したら、金貨10枚を出しましょう。当然、道中の宿や食事代もこちらで負担します。」


 え、金貨十枚?

 金貨十枚ってことは、ざっと一千万円くらいか!?いきなり??

 さっき見てた他の依頼なんて、銀貨十枚とか、よくて五十枚くらいだったのに……。いきなり夢の田舎での一軒家が近づいたのか?


 ただ、


「協力ってのは何をすればいいの?」


「上位精霊を呼び出すには大量のマナが必要なのです。私たちのを全部合わせても足りない位。なので、召喚する際に貴方のそのマナを提供してもらうことになります。」


 ん、マナを提供するだけでいいのか?

 それならまぁ問題ないか?

 その上位精霊と闘えとか言われたら、ちょっと考えるけど。


「分かった。雇われてやる。」


「ありがとう。」


 エリシアは美しい笑顔を浮かべながら、俺に手を差し出した。

 その手は温かく、力強さを感じさせた。


 ガルドが顔を真っ赤にして俺を睨みつけている。

 下等な人間ごときがエリシア様に触れやがってとか思ってるんだろう。

 このお供の二人と上手くやっていける気はしないが、金貨十枚の為なら多少は我慢してやるか。


 ということで、俺はエリシアに雇われることになった。

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