第一章 駆け出しの冒険者編
☆2 そして俺は捨てられた
赤ん坊状態となった俺は無抵抗のまま、お城みたいな大きな屋敷を出るとおっさんに抱えられ、そのまま馬車に乗せられた。馬車の中は豪華な装飾が施されており、柔らかなクッションが敷かれていた。
服も着ていない。おしめだけ履かせられた状態で、ほぼ丸裸だった。
おっさんは俺に憐憫の表情を向けて何か語りかけてくるが、相変わらず何を言っているのか全く分からない。彼の声は遠く、まるで別の世界から響いてくるようだ。
太陽のようなものが昇り始める夜明けっぽい感じの中、馬車は静かに出発した。低い視線から辛うじて見える外の世界は、中世ヨーロッパのような雰囲気を醸し出している。
ただ、どういう原理かは分からないが、街道の両側には電灯のようなものが点灯していて、文明のレベルは決して低くないように感じられた。
馬車の揺れに身を任せながら、俺は外の景色に目を凝らした。
石畳の道を進む馬車の音が心地よいリズムを刻み、街道沿いの家々には暖かな光が漏れ、窓越しに人々の生活が垣間見えるようだった。どこか懐かしさを感じる風景だが、同時に異世界のような不思議な感覚の方が強く、俺はここが異世界であることを確信していた。
暫くすると、俺は眠気に襲われた。
瞼が重くなり、意識が遠のいていく。
最後に見たのは、オレンジ色に染まり始めた空と、街道を照らす電灯の光だった。
そのまま、俺は深い眠りに落ちていった。
ガタンという馬車の揺れで目を覚ますと、外は真っ暗だった。
馬車の前に備え付けられたライトが、木々の間を縫うようにして前方を照らしていた。いつの間にか真夜中になっていたようだ。周囲は深い森の中のようで、木々の影が揺れていた。
おっさんは無言で俺を抱きかかえ、馬車から降りた。
冷たい夜風が肌を刺すようだった。
しばらくすると、洞窟の入り口のような場所にたどり着いた。
洞窟の中は真っ暗で、目を開けていても、閉じていても何も見えなかった。おっさんはその暗闇の中を迷うことなく進み、やがて俺を地面に置いた。
彼は何かを俺に語り掛け、そのまま去っていった。
洞窟の中は湿気があり、冷たい空気が肌に触れるたびに鳥肌が立った。
おっさんの足音はどんどん遠ざかり、やがて何も聞こえなくなった。
「ん?」
「ちょっと待って?」
「捨てられたの俺?? このまま死ねって??」
恐怖感がじわじわと体を侵食し始めた。
冷たい汗が背中を伝い、心臓の鼓動が耳元で響く。
「マジかよ!! 巻き込まれて異世界転生しただけなのに、こんなのって有りかよ!!!」
「ふざけんなよ!!」
暗闇の中で、絶望感が押し寄せてきた。
心の中に重い石が沈んだような気分になり、呼吸が苦しくなった。
◆◆◆
何時間くらい経っただろうか。
洞窟の中は相変わらず光も無く真っ暗で、時間の感覚が全くわからない。
さっきまで寝すぎたせいで眠気も無い。
めっちゃ腹が減った。
腹が減ると恐怖心も少しずつ薄らいできた。
空腹が他の感覚を麻痺させるように、恐怖も和らげてくれるのかもしれない。お腹が鳴る音が洞窟の壁に反響し、孤独感が増す。
恐怖心が薄れた俺は前世で見てたアニメや漫画の続きを妄想したり考察したり、とりあえず現実逃避していた。他に出来ることが何もないんだから仕方ない。そんな時、ふと遠くで話し声が聞こえてくるのを感知した。
ここで声を上げたらどうなるだろうか。
てか、やるしかなくね?
俺は『お~~い誰か~』と声を出したつもりだったが、実際には赤ん坊の意味を為さない泣き声のような感じになった。
しかし、その声に反応して足音が近づいてくるのを感じた。
話し声が近づいてくる。何を喋ってるんだろうか?
間近に何人かの気配を感じるまでになったが、真っ暗で何も見えない。
すると突然体を持ち上げられた。
俺を抱きかかえた人物に何か話しかけられる。
どう反応すれば良いか分からず硬直する。
俺はそのまま抱えられ、連れてこられた方向に向かって運ばれていく。
洞窟の入り口へと近づくにつれ、光がどんどん差し込んでくる。
そして入口を出る時には強烈な日差しに目を開けることが出来なかった。
暫くして目を開けると太陽は高く昇っており、お昼過ぎくらいだろうか?
俺を抱きかかえている人物を見上げると、褐色の肌に白い髪が目に入った。
耳の先端が少し長く尖っているのが特徴的だ。
俺を捨てたおっさんは本能的に俺と同じ人間だと理解したが、この人物は明らかに違う。
エルフ?
しかも、その肌の色からしてダークエルフか?
やばい。良い印象が無いんだけど。
邪神への生贄とかにされちゃわないよな??
先ほどまでとはまた違った恐怖がじわじわと広がるのを感じた。
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