☆3 ダークエルフに育てられる
ダークエルフの集落に連れてこられて気づけば15年くらい経っていた。
最初は不安に圧し潰されそうだったが、邪神の生贄にされることもなく、彼らは本当の子供のように俺を大切に育ててくれた。毎日が新しい発見の連続で、彼らの文化や生活に触れながら、俺はすくすくと成長していった。
で、この世界のことも大体分かってきた。俺が捨てられた理由についても。
この世界の殆どの人々は、マナと呼ばれるエネルギーのようなものを持っている。
それは、うっすらと体を覆う光のベールのようなものだ。
マナを持っている人間がそれを目に集中すると、そのエネルギーが視覚的に見えるようになるらしい。ハ〇ター〇ンターで言うところの凝って奴か?
マナは人によって性質が異なる。
それぞれの人が持つマナは、身体能力を強化したり、外に放出して魔法を発動するためのエネルギーや元素に変換したりすることができる。
また、召喚した精霊を具現化するためにも使われる。
マナとは真名だからなと言われたが全くピンと来ない。
人々はそれぞれの特性を活かし、マナを使って様々な仕事に役立てている。
しかし、俺にはそのマナがなかった。
庶民なら何とかなるかもしれないが、俺が生まれた家は貴族で、成人したら騎士団や宮廷魔導士団に入るのが運命だったっぽい。
でも、マナを持たない俺はどちらにも入れない。
だから将来を悲観して捨てられたんだろう、と教えられた。
なぜ俺を拾ってくれたのか、恩人のダークエルフに尋ねたことがある。
彼はふん、と鼻で笑い、何でもないようにに答えた。
「種族が違えど、赤ん坊を見殺しにするのは忍びないからな」と。
その言葉に、俺はマジで深い感謝の念を抱いた。
前世の知識で役立てそうなことは残念ながら何もなかった。
まぁ異世界系のアニメや漫画はよく見てたからダークエルフみたいな亜人の存在もすんなり受け入れることが出来たくらいか。
ホントにいるんだなって。
この集落での俺の仕事は、採集・栽培とか弓矢を使っての小型動物の狩猟とか人間の街へのお使いみたいな雑用がメインだった。
狩猟はリアルハンティングゲームみたいで楽しかった。
◆◆◆
俺が捨てられた洞窟はマナの満ち溢れる神聖な場所として崇められていた。
洞窟は深い森の中で、真っ暗な口を不気味に開けている。
周囲の木々は高くそびえ、太陽の光を遮って薄暗い影を落としている。
風が吹くたびに、木の葉がざわめき、まるで何かが潜んでいるかのような錯覚を覚える。洞窟の入口には苔が生い茂り、湿った空気が漂っていた。
今日、俺は幼馴染のナクティスと共にこの洞窟の奥深くでの採集のお使いを頼まれていた。澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込みながら、俺たちは静かに歩き出した。
ナクティスは俺が拾われる少し前に生まれたこの集落では何十年ぶりかの子供で、俺とは兄弟のように育った。お調子者だが優しい奴で、前世にはいなかった親友のような存在だった。
ナクティスは頭上にマナを放出し、それを発光させて足元を照らしながら、俺たちは先へ進んだ。マナの光は柔らかく周囲を照らし出し、暗い洞窟の中でも道を見失うことはなかった。
ぶっちゃけダークエルフは暗闇の中でも目が効くらしいので、俺の為にやってくれているんだろう。
「しっかし、ジメジメしてるわ、虫がまとわりついてくるわでマジで不快だな」
「神聖な場所なんだろ?そういうこと言ってると罰が当たるぞ」
「爺さんどもと違って、神聖とか言われてもその概念がピンとこない。」
そんな軽口を叩きながら数時間歩き、目当てのスポット、洞窟の奥深くまで進むと、そこには洞窟とは思えない神秘的な空間が広がっていた。
暗い洞窟の中でそこだけは電気が点いているかのように明るく輝いている。
少し離れた場所からでも、緑豊かな植物が自らのマナを放出しながら生い茂っており、発光して周囲を照らす不思議な物体がフワフワと浮いているのが目に見えた。
ここの集落のダークエルフは年に数回、この神聖な場所の植物の種や果実を持ち帰り、自分たちの農作地へ植えることで、その恩恵を享受している。
十五年前、俺を拾ったのは、たまたまその採集の帰りだったそうだ。
俺はそのあまりの神々しい風景に思わず息を呑んだ。
そして物珍しさに採集も忘れ、うろうろと探索していると奇妙な植物を見つけた。
その植物は周囲と一線を画す、ひと際鮮やかな緑色、エメラルドグリーンに近い色で発光していて、葉の間にオレンジ色のゼリー状の物質を煌めかせていた。
何だかめっちゃ美味そうに見えて、無意識のうちにそのゼリーを手に取り、俺はそのまま口に入れてしまった。
!!!!!!!!
すると突然、俺の体の奥にあった何かと反応し、体内で爆発したような感覚があり、体中が燃えるように熱くなった。そして毛穴と言う毛穴から蒸気のようなものが噴出する感覚に襲われた。
「ヤバイ!!これ死ぬ!!!」
本能が俺にそう告げていた。
俺はじっとしていることが出来ず地面をのたうち回った。
ナクティスが驚愕した表情で慌てて俺に近寄り、何か言ってるが全然聞こえない。
目の前の景色が一変した。
今までの世界に新しい色が追加された感じだ。
草花が鮮やかに輝き、空気中に漂う微細な光の粒が見えるようになった。
ナクティスの体を覆うオーラのようなものもはっきりと見え、その光はまるで生きているかのように揺らめいていた。
「あ、これがひょっとしてマナなのか?」
と思った瞬間、俺の視界はぼやけ始め、意識が遠のいていった。
そして、次の瞬間、俺は完全に意識を失った。
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