魔力ゼロと測定された落ちこぼれですが剣術極めて冒険者を目指します!
さい
魔力ゼロと測定されまして
冒険者──それは、未知の世界を切り開く者。
恐怖と希望を抱きながら、新たな地平を求めて歩む者。
その道は険しく、死と隣り合わせだ。
幾多の命が散り、無数の夢が砕ける。
それでも彼らは進む。
なぜなら、冒険者こそがこの世界を変える存在だからだ。
これは、冒険者を夢見る一人の少年の物語である。
○
世界で五本の指に入る冒険者たちのことを人々はこう呼ぶ『勇者』と。
その一人、ラシュ=テインゼは人々から“蒼雷の勇者”と呼ばれ、その剣技と魔法で数え切れない戦場を勝利へ導いてきた英雄だ。
彼には一人息子がいた。
アシュ=テイゼン──父に憧れを抱き、自分もいつか冒険者になることを夢見る七歳の少年だった。
「親父!! 俺、絶対に親父みたいな冒険者になる!!」
「ははは、それは心強いな。お前ならなれるさ」
ラシュは自信たっぷりに笑い、アシュの頭をぐしゃっと撫でる。
その言葉に、アシュの小さな胸は熱く高鳴った。
父のように世界を救う冒険者になる。それが少年の全てだった。
冒険者としての力の大部分を決定づけるもの、それは魔力量だ。
魔力を蓄える"魔筋"を持つ者だけが、その力を鍛えることができる。
魔筋は生まれ持ったものであり、鍛えれば鍛えるほど、冒険者としての素質を高めていく。
だが、十万人に一人、魔筋を持たずに生まれる者がいる。
その事実が判明するのが、七歳の誕生日に受ける『解魔の儀式』だ。
アシュもまた、その運命的な日を迎えた。
薄暗い教会の中央。
神官が掲げた水晶型の魔力測定器が、アシュの魔力量を計測する。
周囲には、大勢の街の者たちが見守っている。
「アシュ=テイゼン……測定結果を発表します」
神官の声が神聖な空間に響き渡る。
アシュの心臓は高鳴っていた。
「判定は……魔筋なし、魔力量ゼロです」
一瞬、空気が凍りついた。
「……え?」
アシュは耳を疑った。
今、自分が聞いた言葉が理解できない。
「ゼロ……?」
会場の中がざわつき始める。
ゼロという結果にざわめきと同情の視線が集まる。
「そんなはずねーだろ!!」
隣にいたラシュが激しく叫び、神官に詰め寄る。
「俺の息子だぞ!? 魔筋がゼロなんてあり得ねえよ!! そ、そうだ、測定器が故障してんだ!!」
「……ラシュ殿、測定器の故障ではありません。正確な結果です」
神官の冷静な声がラシュを打ちのめす。
彼は拳を握りしめ、膝に力を入れる。
「そんな、バカな……」
ラシュが打ちひしがれる姿を見たアシュの心に、深い絶望が広がっていく。
魔力ゼロ。
魔筋なし。
冒険者になれない。
その言葉が胸の中でぐるぐると響き続ける。
「俺……冒険者になれない……?」
それは、彼の全てが否定された瞬間だった。
「くそおおおおお!!」
突如、アシュは叫び声を上げ、教会を飛び出していった。
アシュは全速力で駆けた。
涙が頬を伝い、視界はぼやける。
「俺、ダメなんだ……冒険者になれない……何の価値もない……」
彼は街の外れにある崖まで走り、そこで座り込んだ。
沈む夕日が赤く染まった海に反射し、幻想的な光景を映し出している。
だが、そんな美しさも彼の心を癒すことはない。
その背後から足音が聞こえた。
「やっぱりここにいたか……」
ラシュが、荒い息を吐きながら近づいてくる。
「……ほっといてよ」
「バカ野郎。親父が息子ほっとけるわけねえだろ」
ラシュはアシュの隣に腰を下ろし、静かに海を眺めた。
「なあ、アシュ。冒険者ってのは、魔力が命だと思うか?」
「……だって、そうなんだろ。魔力がない俺には、冒険者になんて……」
「確かに、魔力は強力だ。だが、それだけで全てじゃねえ」
ラシュは一息ついて、遠くを見つめた。
「俺もな、昔は魔力が少なかったんだ。だけど、それを補うために剣術を極めた。努力して、工夫して、剣を自分の武器にしたんだ」
「努力しても、魔筋がないと意味ないよ……」
アシュの声は弱々しい。
だが、ラシュは力強い声で言い返した。
「お前がゼロなら、ゼロから作りゃいい。魔筋がないなら、剣を魔法以上にすればいい。誰にも真似できない強さを、これからお前が作るんだよ」
アシュは涙を拭い、ラシュを見上げた。
「俺、本当に、なれるかな……親父みたいな冒険者に」
「なれるさ。お前は俺の息子だ。それ以上に誇れることなんてねえよ」
その言葉に、アシュの胸の奥で小さな希望の灯がともった。
「……俺、やるよ。絶対になってみせる!!」
父の言葉に背中を押され、少年の心に新たな決意が芽生えた。
これが、後に“ゼロの少年”と呼ばれる少年の世界を変えるための第一歩であった。
魔力ゼロでも、魔筋なしでも──その意志だけは誰にも止められないのであった。
魔力ゼロと測定された落ちこぼれですが剣術極めて冒険者を目指します! さい @Sai31
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