【資料⑦】《埼玉16歳少年・母親殺害》「献身的な息子だった」
今年2月、埼玉県K市のマンションの一室で高校二年生の少年A(16)が実母を殺害するという痛ましい事件が発生した。少年は容疑を認めており、近く家庭裁判所によって処分が言い渡される予定である。
現場となったのは、埼玉県K市の閑静な住宅街にある、ありふれたオフホワイトの外装のマンション。そこは陽当たりが良く、小学校や中学校も近く、あたりにはボール遊びができる公園がいくつもある。子育てしやすい場所ともいえるだろう。ゆえに取材最中、多くの家族をみかけた。
実際、少年の家族も、「子育てしやすい場所だから」という理由でマンションを購入したという。
週刊英春の取材に対して答えてくれたのは、少年の父方の叔母にあたる人物であった。彼女は、少年の父親の妹だという。
調べてみると、Aの祖父母にあたる人物は父方も母方もすでに逝去しており、母(被害者)にはきょうだいがいなかった。後述するように、少年の父親は事件当時、すでに他界している。よって、叔母が唯一の、血の繋がりのある親族であった。
「Aくんのことは、私も、それから私の夫も気にかけていました。というのは、兄(少年の父親)が六年前に他界したからです。家の行き来もよくしていました。それこそお盆とか、お正月とか、集まってパーティーみたいなことをしていました」
殺害されたB子さんは、サラリーマンとして大手飲料会社で働く男性と結婚。Aをもうけた。そしてAが幼稚園に入園すると同時に、現場となったマンションを購入している。
しかしながら、一家に悲劇が襲う。
夫が出勤途中に、トラックにはねられるという事故に遭ったのである。夫は帰らぬ人となり、その後、B子さんは一人息子とふたりの生活をしていく。
叔母は語る。
「事件の兆候なんて、私にはわかりませんでした。なにせ、ふたりの間に不和とかはなかったので。……一時期、兄が亡くなってしばらくしてからの頃だったと思うんですけど、B子さんがふさぎ込んでしまっていたことがあったんです。そんなとき、AくんはB子さんのことを献身的に支えていて。まだ小学生なのに、えらいな、すごいな、と思った憶えがあります」
B子さんの夫が亡くなったのが六年前。そうすると、Aは小学校五年生だった計算になる。思春期の男の子が母親を献身的に支えることができるのは、確かにめったにできることではないだろう。
B子さんは夫が亡くなった後、精神的に不安定になったことを理由に、パートとして勤めていたスーパーをやめている。だがそれから2年ほどして、別のスーパーに再びパートに出ていた。殺される3日前にも、彼女は出勤していた。
2年という期間で再びパートに出られるまでになったのは、少年Aによる力が大きかった、と叔母は回想した。
だからこそ、彼女は「なんで甥がそんなことを……」と胸裏を語る。
「Aくんがなんでそんなことをしてしまったのか……。なんで、私たちにひとつの相談もしてくれなかったのか。それが悔しくて、悲しくて、しょうがないんです。……なんで、なんでそんなことしたのって、今はその理由がききたいです」
そう言って、叔母は泣き崩れた。
亡くなった兄の忘れ形見による、実母殺害。
想像つかないほどの痛みを伴った事件であることは疑いようがない。
だが、少年Aがなぜ実母を殺すという凶行に至ったのか、その理由は厚いヴェールに包まれたままである。
――週刊英春ONLINE(2022年3月1日配信)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます