第16話 グループディスカッションの結果、Sクラスの相性はバッチリです

「おー、おー、今年のSクラスは仲が良いのう」


 わいわいと3人で話しているところに、セリオンド王立学園の学園長グレゴリス・ヴェインが特徴である長い髭を揺らして入室してくる。


 教卓に立つと俺達3人を見比べて、うんうんと頷いた。


「此度はSクラスへの入学おめでとう」


 トーナメントの時もパチパチと拍手をしてくれたが、改めて拍手をくれる。


「お主達は優秀な成績を誇ってSクラスへと入学できた。これからお主達は、2年生、3年生達のSクラスとの交流が多くなるじゃろう。そこでリーダーシップを学び、1年生達を引っ張っていって欲しい」


 学園長先生は厳しい顔をして一言申す。


「実力がなければ下の者に追い抜かれてしまうから、ゆめゆめ気を付けるように」


 少しばかりの緊張が走るが、先生はすぐに厳しい顔を崩して優しい顔付になる。


「なに、お主達ならそう易々と追い抜かれることはなかろうがな」


 その柔らかい表情のまま、クラスについての説明を続けてくれる。


「Sクラスは完全なる自主性のクラスとなる。全ての事柄を自分達で決めて欲しい」


 お、おお。凄いなSクラス。それほど実力を認めているということなのだろうか。


「ただし、いくつか例外があっての。例えばじゃが、2、3年生のSクラスとの会議や、グループでの授業。それらは必修科目じゃて、Sクラスの4人で受けるように」


 ほとんどはやりたい放題だけど、いくつかはSクラス全員で出なければならない授業があるということね。


「まずは皆でグループディスカッションをしてもらい、役職を決めて欲しいのじゃが……」


 学園長先生は目の前の空席に視線をやって苦笑いを浮かべた。


「どうやら、まだ一人来ていないみたいじゃの」


「すみません! 遅れました!」


 爽やかな声と共に、青髪の爽やか系イケメンが教室に入ってくると、そそくさと空いている一番前の席に躊躇なく座った。


「カイ・アスベルトよ。お主は実力でSクラスを勝ち取った。その実力は確かで、多少傲慢になり、時間にルーズになる気持ちもわかる。だがの、人間に与えられた最も平等なもの。それが時間じゃ。環境、生まれ、才能、世の中には不平等なものしかないが、時間だけは皆が平等に与えられておる。時間だけは尊重せんといかんぞ」


「はい。すみませんでした」


 時間にうるさいじいさんみたいだな。ま、確かに、学園長先生の言う通りではあるよな。時間は平等。これだけは覆すことができない。


 隣で三雲はうんうんと頷いている。そういえば、尊敬していると言っていたな。さっきの言葉が響いたみたいだな。


「説教はこの辺にして、今からグループディスカッションを行ってもらう。決めてもらうのはお主達の役職じゃ。それぞれ、生徒会長。副生徒会長。会計と書記。それぞれ決めたら、ワシのところまで報告に来て欲しい。今日の授業はそれで終いじゃからな。早く決めれば早く帰れるぞ」


 そう言い残して学園長先生は教室を出て行った。


 学園長先生が出て行ったあと、カイはくるりと後ろを向いて苦笑いを浮かべた。


「ごめんね。僕の説教をみんなで聞いてしまう形になってしまって」


 謝ったあとに、「あ、そうそう」と思い出したように立ち上がる。


「自己紹介がまだだってね。僕の名前はカイ・アスフェルト。よろしくね」


 ニコッと爽やか笑顔が飛んで来て、もし普通の教室だったのなら女子達の黄色い声が飛び交ったことだろう。しかし、ここにいるのは転生姫様とダメイド。そして30歳のおっさんだ。爽やか笑顔できゃーきゃー言う奴はいない。


「よろしくお願いしますね。カイさん。私はミクモ・ヒイラギです」


 カイへと真っ先に返したのは三雲であった。


「エレノア・ヴァルディエールと申します」


 ミクモに続いて自己紹介をしたのは専属メイドのエレノア。


「キョータ・ミカドだ。よろしく」


 俺も無難な自己紹介をしておくと、「ミクモにエレノアにキョータ」と名前を繰り返した。


「みんな、これからよろしくね」


 うわー。爽やかだなー。こんな奴が友達だったら、心の中にまで爽やかな風が吹きそうだな。


「早速だけどさ、学園長先生の言っていた役職ってのを決めていこうぜ」


 これが終わればさっさと帰れるわけなので、サクッと決めて帰りたいのだが、こういうのって本当に決まらないよな。早く終われば帰れるってやつは、大体夕方までかかるパターンだ。


「私、生徒会長をやりたいです」


 やっぱりそうだよね。わかってたよ、うん。もう十分目立ってるから、今更生徒会長でも一緒だよ。


 ハルトさんも三雲にリーダーシップを学んでもらいたいと言っていたからな。


 エレノアも流石にその意図は汲んでいるみたいで口出しはしなかった。


 残るはカイの反応だが……。


「僕は寝坊しちゃう癖があるからね。会長なんてとんでもないよ。キョータとエレノアが良いのであれば、ミクモが会長で良いんじゃないかな」


「俺はミクモで良いと思う」


「私も同意見です」


「なら、会長はミクモに決定だね」


 パチパチパチとカイが拍手をするもんだから、俺とエレノアも拍手を送っておく。


 ミクモはちょっぴり恥ずかしそうにしていた。


「僕は会計でも良いかな?」


 ここでカイが自分のやりたい役職を指名した。


「さっきも言ったけど、寝坊するような奴に副会長なんて無理だろうし、僕は字が汚いからね。書記も無理そうだ。会計も計算が苦手だけどこの中なら会計くらいしかできなさそうなんだ。だめかな?」


「良いんじゃないか。カイが会計で」


「そうですね。韻踏んでますし」


「ほんとだ。僕、韻踏んでるね。天職じゃないか」


 あははとノリ良く笑う。この爽やか系イケメン。ノリも良いし、謙虚だし、最強では?


「それじゃあ、会計はカイさんということで」


 パチパチパチと拍手を送るとカイは照れくささそうに、「がんばるよ」と一言。


「ミクモ。副生徒会長はどうする?」


「京太くんにお任せできますか?」


 そう言って三雲が俺に耳打ちをする。


「エレノアには任せられません」


「だな」


 こいつが副生徒会長なんてできっこないだろう。かと言って書記もできるか不安だがな。


「副生徒会長はキョータで決まり?」


 カイの言葉にエレノアが無表情で言ってのける。


「不安しかありませんが、よしとしましょう」


「お前だけには言われたくねぇよ」


「御意に」


「なんで今、御意が出たんだ」


 相変わらずわけのわからないメイド様だ。


「えっと、もしかして、これって役職決まっちゃったよね」


 カイの言葉に俺達4人は目を合わせる。


「えっと……解散!」


 ミクモの言葉で今日の学園が終わった。登校してものの10分。


 もしかしてSクラスの相性って最高なのではないだろうか。

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