第14話 エロとエモは紙一重

 クラス選別バトルトーナメントを終え、俺と三雲とエレノアはSクラスとなった。そしてもう1人、カイ・アスフェルト。まだ絡みはないため、彼がどういう人間なのかはわからないが、同じSクラスなんだ。その内に人となりがわかってくることだろう。


「しかし、Sクラスは4人だけなんだな」


 バトルトーナメントは意外にも時間が過ぎており、学園を出た頃には夕方になっていた。


 夕日をバックに俺と三雲は長い坂をゆっくりと下り、転移場所のある空き家を目指す。


 日本の入学式は昼までに終わるのに、流石異世界。入学式が夕方に終わるなんて、なんともブラック臭が漂ってくるぜ。


「Sクラスは生徒会の意味ですからね」


 三雲の言葉に耳を疑った。


「ぬ?」


「Sクラスはstudent councilの略ですから」


 なんで異世界なのに英語なのか……ま、いいか。


「え、ちょっと待って、え? 入学から生徒会が決まるの?」


「ええ。セリオンド王立学園では1年生~3年生のSクラス各4人、計12人が生徒会として所属することになります」


「待て待て。そんな説明聞いてないぞ」


「あれ、そうでした?」


「そうでしたよ! 嫌なんだけど、生徒会とか猛烈に嫌なんだけど!」


「名誉なことじゃないですか」


「生徒会だなんてひたすらに面倒じゃないか。つうか、もっと人数がいると思ったからSクラスでも良いと思ったけど、少人数で、しかも生徒会とかひたすら目立ってどうすんだよ。あんた、身を隠している身だろ」


「身を隠している身ですが、やっぱり学園に通うからには高みを目指すでしょ」


「それじゃあ学園に通う意味はないのでは?」


「身を隠しているのにわざわざ目立つ行動はしないと見せかけて、逆に目立てば良いのではという作戦です」


「逆転の発想ね」


 ま、一理あるっちゃあるのか。


「えへ、ウソです」


 てへっと可愛らしく舌を出し、勝手に自白しやがりました、このお姫様。


「本当は京太くんと生徒会って楽しそうだったからです」


 三雲は遠い目をして思い出すように言って来る。


「あの頃、京太くんは野球部で私は吹奏楽部。全然接点がなくて、寂しかったですから」


「練習場所が内と外じゃ部活中は接点なんかないわな」


「だから、嬉しいです。この世界であなたと生徒会に入れて」


 ニコッと微笑んでくれる三雲の顔は、夕日のせいか、それとも照れているのか、真っ赤に染まっていた。


「京太くん、嬉しいんですか?」


 真っ赤な顔をした三雲にそんなことを言われてしまう。


「な、なんで?」


「顔、真っ赤ですよ」


「なっ!?」


 自分の頬を触ってみると、確かに熱い。こりゃ照れてるな。


「これは夕日のせいで……」


「言い訳が30歳じゃないですよー」


 くぅ……こういうところで年齢いじりが始まってしまう。


「ふふ。30歳の男性が私みたいなお子様に言われて照れるなんて、かわいいですね」


「待て待て。同い年だから。お前も同じ30歳だから。三十路だから!」


「私は15歳で転生して、今も15歳ですから。永遠の15歳です」


「まじで永遠の15歳だからなんも言えない」


「京太くんは30歳で転生しているので、私より随分とお兄さんです」


 30歳をおっさんではなくお兄さんと言ってくれる三雲はめちゃくちゃ良い子である。


「見て! 俺の見た目!」


 自分の顔を指差して必死こいて相手に訴えかける。


「はい。私のチートがいかに高性能かわかるくらいに15歳ですね」


「自画自賛」


「自我で爺さんにしてやりたかったです」


「言葉の語呂だけで返してくんなよ」


「てへ⭐︎」


 そんなやり取りをしながら家に帰るのは、なんだか中学生の頃、よく三雲と帰った帰り道みたいで異常なまでにエモかった。


 もう叶うはずのない三雲との下校を、異世界で叶えることができて、しみじみ異世界に来て良かったと思える。


 ♢


「異世界、無理、嫌い。しんどすぎ──げぼぉぉぉ」


 あ、はい。転移酔いのことを忘れていました。俺の愚痴と共にリピドーを受け止めてくれる便器パイセンは日本だろうが、異世界だろうが俺の味方だぜ。


 さっきまとは真逆の感情が渦巻き城のトイレの個室から出る。


「キョータ様」


 個室を出ると、目の前にはメイド服を着たエレノアが立っていた。


「こちらをどうぞ」


 そう言って渡してくる小瓶にはなにやら薬のようなものが入ってあった。


「ハルト様秘伝の酔い止めらしいです」


「あ、うん。それは嬉しいんだけどエレノアよ」


「いかがなさいました?」


「ここは男子便所だぞ」


「はい。まごうことなき男子便所ですね。女子便所にはない、男子専用の小便器がズラリと並んであります。これを我々女子が使用するとなると、犬の小便みたいになってしまいますね。屈辱的ですが、それもまた興奮してしまいます」


「落ち着けダメイド。女子が男子便所で興奮したら末期だぞ」


「では、末期な私は犬の真似をして小便をしろと……英雄様に命じられては仕方ありません。僭越ながら……」


「待たんかい拗らせ思春期! ついさっきまでエモさ爆発してたのに、エロさ爆発させてくんな」


「エロとエモ。韻を踏んでいますね」


「どうでも良いんだよ。つうか、なんで己は堂々と男子便所にいるんだよ!」


「キョータ様だって堂々と男子便所にいるじゃないですか」


「俺は良いだろうが」


「だったら私も良いじゃないですか」


「なんで俺とお前が同じ土俵なんだよ!」


「職業差別ですか? メイドを下だと思っているんですか?」


「男女差別してんだよ!」


「今の時代に男女差別なんてよくできましたね」


「どの時代でも男女の便所は差別するべきだろうが!」


「確かに。はい、論破されましたー」


 そう言い残してエレノアは、「敗者は去るのみ」と言って男子便所から出て行こうとして立ち止まる。


「キョータ様。私、諦めませんから。職業差別も男女差別もない未来を……アデュー」


 かっこよく言い残して去って行ったが、男女便所を差別しないのは、ただの無法地帯になる未来だぞ、エレノアよ。


 しかし、エレノアの持って来てきれた薬はすこぶる効いた。

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