第11話 即落ち貴族をKO!

 セリオンド王立学園では、入学式からクラス選別のトーナメントが行われている。


 人数が多いため、なかなかの俺の番がこない。


「次! エレノア・ヴァルディエール!」


 俺と三雲よりも先に、三雲の専属メイドであるエレノアが呼ばれた。


「エレノア。思いっきりやっちゃってSクラスになるのよ」


「良いんですか? いつもは力を抑えろと言うのに、今日は本気でやってしまって」


「無双しちゃえ」


「御意に」


 エレノアはパンパンと手を鳴らして2番フィールドに向かって行った。


「エレノアってそんなに強いの?」


「私より強いです」


「転生者の特権がある三雲より強いって、結構なチートキャラじゃ?」


「私は戦闘向きではありませんからね。サポート寄りです。エレノアは完全に前衛特化型です」


「三雲の護衛はエレノアで良かったんじゃ?」


「腕は確かですが、はちゃめちゃに暴れ回るタイプですので護衛には向いていません」


「なんでメイドやってんの?」


「メイド服が好きみたいですね」


 本当にメイドには向いていないみたいだな。


「あ、そうそう京太くん」


 思い出したように三雲が教えてくれる。


「試合が始まる前に伝えておきます。京太くんのアッパーコンパチブルなんですが、最大5つまで保存できますからね」


「そんなに保存できるの?」


「はい。京太くんの持っている拳銃の弾数と同じにしておきました」


 ちょっと貸してくださいと三雲に言われてしまう。拳銃を貸すのに躊躇するが、弾は入ってないから大丈夫かと彼女へ拳銃を手渡した。


「コピーした能力スキルはシリンダー部分に入っていると思ってください。能力スキルを変えたい時はシリンダーを能力スキルに合わせて──バンッと脳天を撃ち抜いてくださいね。シリンダーを回した際に感覚でどの能力かわかるのでご安心ください」


「便利なもんだ。能力スキルを5個コピーした後に6個目をコピーしたらどうなる?」


「それも感覚で消すことができますよ」


 くるくると拳銃を回してこちらに返してくれる。


「これから先、コピーする能力スキルは多くなるでしょうから、上手く使いこなして私を守ってください」


「チュートリアルどうも」


 三雲に返してもらった拳銃を胸の内ポケットにしまうと、「次、キョータ・ミカド!」と呼ばれた。


「あ、俺って日本の時と同じ名前なんだ」


「手続きの時、偽名を考えるのも面倒だったとお父様が言ってましたからね」


 ま、俺が本名だろうがなんだろうが、なんだって良いわな。


「それよか、三雲は? お前こそ偽名じゃないとだめだろ」


「私の名前は知られていません。お父様が公表しなかったのです」


 三雲が名前について教えてくれているところで、「ミクモ・ヒイラギ!」と三雲の名前が呼ばれて、パチンとウィンクを投げてくる。


「ですので、私も本名です♪」


「そうだね。本名だね」


 セリオンドが抜けているが、まごうことなき本名だ。


 この学園での三雲の名前がわかったところで、俺を呼んだ試験管のところへ向かう。


「京太くん」


 途中、三雲に呼ばれて振り返る。


「Sクラスですからね」


「あいよ」


 ♢


 さて、10番フィールドに上がって対戦相手と対峙してんだけど……。


「ふんっ。さっきの平民か……」


 さっきの即落ち貴族が相手みたいだ。見事にフラグを回収しやがったな。


「イーグル・ラヴェンス対キョータ・ミカドの試合を開始する。はじめっ!」


 試験管の合図が響き渡る。


「さっきのゴミ平民が相手か。良いだろう。さっきのが俺の本気だと思うのなら大間違いだ。名門ラヴェンス一族のイーグル様を無視したことがどれほどの重罪か、その身を持ってわからせてやる」


 前世の警察官の時には、中二病発言をして絡んで来るイキり中学生もいたなぁ。懐かしい。


「一瞬で片を付けてやる。平民風情がっ!」


 同じ制服を着ているというのに、なんで俺が平民だってわかるんだろうか。俺ってば、そんなに平民顔なんだろうか……。


 そんな悠長なことを考えている場合じゃない。


 強い言葉を放ち、こちらに手を伸ばしてくる。


 彼の放った強い言葉自体はハッタリではなさそうだ。


 先程、俺へと至近距離で放った魔法の魔法陣よりも数倍は大きい。


 さっきよりも強い魔法が来るのは確かだろう。


「くらえっ! 『イグニスコラム』」


 大きな魔法陣から出て来たのは、俺の身体よりも大きな火炎球。単純に、さっきの火の玉よりも数倍は大きい。


「俺の、『イグニスコラム』を受けて立っていられた者はいない!」


 おい、それ、負けフラグだぞ。


 なんて心の中で相手に教えながら、迫り来る火炎球を振り払う。


 火炎球自体は簡単に振り払うことに成功する。ちょっと熱いなぁくらい。


 でも、安易に触れるものじゃなかったみたいだ。


 火炎球は簡単に割れてしまう。そこから巨大な火柱が上がり、俺を包み込む。


「ふはははは! かかったな、間抜け! 火柱に飲み込まれて死ね!」


 火柱に包み込まれる中を涼しい顔をして歩き出す。


「なっ、に!?」


 俺が平然と相手に向かって歩いていることに驚きを隠せないと言わんばかりのリアクションを見してくれた。


「ば、ばかな。お、俺のイグニスコラムを受けて、平気な奴など……父上をも凌駕した、俺のイグニスコラムが……」


 ゆっくりと相手に近づいて行く。


「く、くるな……くるな!」


 小さな火の玉を連続で放ってくる。


 右足、左肩に当たるが、俺としてはただただ煙が出るだけの球に当たったという感覚しかない。


「くるなっ!! くるなああ!」


 先程よりも多く火の玉を放ってくる。


 相手との距離が近くなる度に、心臓、脳天と、急所に当てて来るが、それがどうしたと言わんばかりに近づく。


「ば、化け物……!」


「化け物ぉ? 違う……俺は平民たん☆」


「う、あ……あああああああ!!!」


 叫び声を上げて最後にもう一度火炎球を唱えて来る。


 至近距離での火炎球は見事に俺へと命中し、再度火柱が立った。


 その火柱の中から出て来て、俺は思いっきりラリアットをかましてやる。


「ぐはっ!!」


 そのまま地面に軽く叩きつけてやると、フィールドが割れて埋まってしまう即落ち貴族。死んではいないだろうが、白目を向いて気絶してしまった。


「勝者、キョータ・ミカド!」


 即落ち貴族様を寸止めでKOして、あっさりと勝ってしまったな。


 こいつの能力スキルは……いらないか。

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