第10話 転生者の特権はやっぱり強い

 視界が晴れると目の前には複数の石畳の正方形のフィールドが複数見えた。それぞれ1〜10と書いてある看板が設置されているのがわかる。


「ここは……」


 辺りを見渡すと、石の壁にぐるりと囲まれていた。大量にある観客席には数人の大人しか座っていなかったが、彼等は眼光鋭くこちらを品定めするかのように見ていた。


「新入生諸君!」


 中央の一番高いところ。石の玉座に座っているのはセリオンド王立学園学園長であるグレゴリス・ヴェイン。


 高いところから俺達新入生を見渡して一言だけ言い放つ。


「皆の実力を出し切って欲しい」


 それだけ言うと、長い足を組んで観客席に座る大人達同様、いや、それ以上の鋭い眼光をこちらに向けた。


「あれだけの人数を一瞬に転移させるなんて、流石はセレナさんの師匠の学園長先生です」


 隣で三雲が学園長先生を見つめながら、尊敬の眼差しを送っていた。


「セレナって?」


「お父様の仲間です。魔王討伐を共に成し遂げた大魔法使いセレナ様。その師匠がセリオンド王立学園の学園長先生です」


 70代男性が足を組んで座る雰囲気で既に強キャラ感はあるけど、勇者パーティの魔法使いの師匠って肩書きが加わると、更に強キャラ感が増すな。


「学園長先生が偉大な人って言うのはわかったけど、なんで学園長先生の転移が凄いってわかるんだ? いや、転移できるって凄いことなんだろうが、城の転移装置との違いがわからん」


「京太くん。転移酔いしてませんよね?」


「してない」


「そういうことです」


「なるほどな」


 つまりは凄い転移ってのは酔わないってことか。車の運転に近いんだね。ほんと、運転が上手な人の車ってまじで酔わないもんな。


「そんじゃ、学園長先生の能力スキルは転移ってわけか」


「いえ。能力スキルと魔法は別ものです。転移は魔法ですよ。京太くんも魔法を勉強すれば魔法を使うことができます。手から火とか水とか、バーって」


「俺が魔法を……」


 なんとなしに自分の手のひらを見つめてみせる。この手から魔法が出るなんて今は想像もつかんな。


「では、これよりクラス分けバトルトーナメントを開始する! 呼ばれた者は指定された番号のフィールドに上がること」


 俺達の前にいる複数のバインダーを持った大人達が仕切り出す。どうやら試験管みたいな人達みたいだ。


「まずは──」


 呼ばれた連中が各々10個のフィールドへ散って行くと、早速と激しいバトルが行われた。


 激しくぶつかり合う剣の音。激しく放たれる魔法。驚愕の能力スキル


「おいおい。レベル高くないか」


「セリオンド王立学園は優秀な貴族が集まる学園ですからね。エリートが集まっているんです」


 そんなエリート集団に俺みたいな初心者が混じって大丈夫かいな。


「その通り」


 三雲の言葉に、なんともいけすかない声で答える奴が現れた。


 金髪に鋭い目つき。制服には派手な装飾を身に付けてアレンジをしている。


「ここはお前達平民風情が来ていい場所じゃあない。恥をかく前にさっさと消えろ」


 うわー。お約束の即落ち貴族みたいな奴が現れた。


 つうか、なんで俺達を平民と決めつける。いや、俺は平民だけども。まごうことなき平民だけれども。三雲は王族だぞ。見る目なしか。


「あれは魔法の名家ラヴェンス伯爵家の人ですね」


 コソッと三雲が教えてくれる。


「有名な人?」


「有名ですね。ラヴェンス伯爵家は魔法に特化した一族として名を馳せております」


「それって凄いし、強いってこと?」


「正直、私達の敵ではありませんね」


「あら、ストレートで辛辣な真実」


「転生召喚された人間の身体能力は著しく上昇してから転生されますからね。最初から強くてニューゲーム状態です」


「転生者の特権ってやつ?」


「そのようなものです」


 こちらがコソコソとしていると、「おいっ!」と俺達のやり取りを見ていた相手さんが怒ってらっしゃる。


「俺を無視して内緒話とは良い度胸じゃないか」


 どうやら内緒話が気に食わなかったみたい。


「あ、ああ。すまない」


 内緒話でなんで半キレしてるのかわからんが、その程度の理不尽は警察官の時に何度も経験しているし、変なイキりだなぁ程度としか思わない。こんな、まともに会話もできなさそうな奴とは、事を荒立てないよう適当に謝って、極力絡まないのが得策だ。


「すまない? 平民風情の分際で魔法貴族の名門ラヴェンス伯爵家を無視し、そんな薄い謝罪で済むはずがないだろうが!」


 あちゃー。謝ったら事を荒立てるタイプだったかー。いるよね、この手のタイプも。


 血の気の多いセリフと共に、手をこちらに向けてくる。


 彼の手から真っ赤な魔法陣が現れると、そこから火の玉が飛んで来る。


「灰となって詫びろ、平民!」


 至近距離で放たれる火の玉を、避けることができずに思いっきり当たってしまう。


「ふはは! 試合をする前に灰になったか平民。実力差を思い知っただろう。ここはお前達みたいな平民が来て良い場所じゃない。女。お前も灰になりたくなかったら、さっさと失せろ」


 なんか知らんが、向こうさんは俺が灰に妄想をしているみたいだ。


「なっ……!? あああああああ!?」


 煙が晴れ、なんともない俺を見て驚愕の声を上げる。


 あ、うん。こっちとしては暖房くらいに丁度暖かいって感想。でも、暖房と比べると、煙たかったから暖房ってやっぱり最強なんだなって思う。あとは電気代が安ければ良いんだけど、冬の暖房の電気代ってばか高くなるよね。


 しかし、バフ効果のある『ブレイブオーラ』を使わずともなんのダメージにもならないな。これが転生者の特権ってやつか。


「ね?」


 三雲が勝ち誇った顔をして言ってくれる。


「ふ、ふん。身体だけは頑丈みたいだな。ま、まぁ良い。今回は挨拶代わりだ。次に会ったら処刑とする」


 捨て台詞を吐いて、そそくさと去って行く。


 なぁんか壮大なフラグを残して行ったぞ、あいつ。


「この世界にはああいう自分の実力をわかっていない人が多いんですよ」


「ダニングクルーガー効果とか、井の中の蛙大海を知らずって奴だな。ま、俺達も転生者の特権ってなだけだけど」


「運も実力のうちと言うように、転生者の特権も実力のうちです。慢心せずにいきしょう」


「違いない。その力に奢っちゃいけんよな」


 三雲の言葉にしみじみを頷いたあと、彼女に尋ねる。


「そういえば、クラスはどうする?」


「どういうことですか?」


「ほら、S〜Dのクラス。身分を隠しているのなら、あまり上のクラスになって目立たない方が良いと思うけど」


「私達には転生者の特権があるんだから、本気を出せばSクラスになれるし、手を抜けばDクラスにもなれる。クラスは選びたい放題ですものね」


 そこまで考えていなかったのか、三雲は少しだけ考えると、いたずらをする少女みたいな笑みを浮かべる。


「やるからには高みを目指すでしょ」


「Sクラス狙いね。りょーかい」


 ま、手を抜かないってのはわかりやすくて良いよね。

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