第5話 学園に通う理由
三雲の転生召喚の
つまり、中学卒業以降の俺の顔を知らない三雲が俺を転生召喚をすると、15歳の時の外見で転生召喚されるみたい。ただ中身は変わらず歳を取った状態みたいだね。
ガルハートが俺のことをクソガキと言っていたのは完全なる見た目からの言葉だったらしい。こんな見た目がクソガキの奴に大切な姫君を守ってもらうって話になったら、そりゃ騎士団長として文句の一つでも出るって話になる。ただ、こんな見た目クソガキの奴を本気で殺そうとしていた気がするけどな……。恐ろしい世界だ、異世界。
「うわー。学校の制服なんて何年振りって話だ」
姿鏡に映った自分の姿に小っ恥ずかくなるな。そりゃ見た目は15歳だけど、中身は30歳のおっさんだからな。
ハルトの部屋にて、セリオンド王立学園の説明を軽くだけ受けて、指定された制服に着替える。着替えのため、三雲には席を外してもらった。
深いネイビーのジャケット。襟や袖口には控えめだが、金のラインがあしらわれている。胸元にあるのはセリオンド王家の紋章らしい。真っ白なワイシャツの首元から伸びるルビーのネクタイは学年色らしい。ズボンは青っぽいチェック柄。
しかしまぁ、異世界だというのに高校の時の制服に近い格好だな。
「ほっ」
なぜかハルトが安堵の息を吐いた。一体、どういう心境なのだろうか。もしかして、30歳が学校の制服着てる、ぷぷぷ、とか思われたかな。
「あ、いえ、すみません」
視線を向けていると、腰の低いハルトはすぐさま謝って、息を漏らした理由を教えてくれた。
「実は俺、中学の頃にいじめられていまして、そこから30歳まで引きニートだったんですよ」
唐突な彼の告白。辛い過去があったのだろう。だが、今は全然気にしていないというように笑って続けれくれる。
「日本にいる時はたまに外を歩くと警察官からよく職質にあいまして……結構、詰められたんですよね……だから警察官って怖くて……」
「もしかして、それでずっと腰が低いのですか?」
「はい……根がへたれだったんですけど、魔王討伐の旅や女神封印やらで随分と治ったと思っていたのですが、やはり警察官の恰好を見るとビビりますね」
街を守る警察官が住民にトラウマを与えてどうするんだよ。
「ハルトさん。今更ですが、警察官全員がそんな奴等ではありませんよ」
「あ、はい。もちろん承知しています。たまに優しい警察官の人にも会ったことがありますし。雰囲気的にはキョータ殿も優しい警察官だとわかります」
優しい警察官、か。
それが必ずしも褒め言葉とは限らない。
もちろんハルトさんがやられたみたく、警察官が住民を詰めるなんて行為は絶対にダメだ。しかし、優しいだけも警察官の威厳や尊厳が損なわれる。つまりなめられる。なめられて良い職業ではないからこそ、何度上司にゲンコツをもらったか。あ、思い出したらムカついてきた。あのくそ上司の脳天に風穴開けてから転生したら良かった。
わざわざそんなことをハルトさんに言うことでもない。彼は素直に俺を褒めてくれたのだから、これは誉め言葉として大事に受け取っておこう。
「それにしても、学校か……」
再度、自分の制服姿を眺める。まだ少し恥ずかしさが残っているが、それよりも疑問が浮かんでくる。
「俺が転生召喚されたのって、三雲の学園での護衛って認識で良いんですよね」
「そうですね。女神ネフィラが三雲の中に封印されていることを知っているのはごくわずか。ですが情報がどこで漏れるかはわかりません。そのことを知った連中が三雲を襲う可能性もあります」
「女神ネフィラが封印されたことを知って、暴動を起こす連中がいるのですか?」
「女神ネフィラはこの世界では信仰性の高い女神ですからね。信者達が暴動を起こす可能性はありますが、懸念はそこではありません」
「なにか他にあるのですか?」
神妙な面持ちで頷くハルトは、重たく口を動かした。
「ミクモに女神ネフィラを封印しているからこそ、人間にはあり得ない
今回、俺を転生召喚できたのは女神ネフィラが三雲の中に封印されているからってことか。
しかし、それはメリットなのではないだろうか。女神の
「もしかしたら、女神ネフィラが封印されているから、三雲の魔力的なものが毎日蝕まれているとか?」
「いえ。特にそういったデバフ効果はないのです。むしろ逆です」
「逆? バフ効果ってことですか?」
「そうです。ミクモには女神の加護みたく、無償で常にバフがかかっている状態となっています」
「メリットばかりじゃないですか」
なにをそんなに心配しているのだろうか。
「この世界には昔から女神の唄なんてあるみたいなんですよ」
「唄、ですか」
「ええ。『女神の涙は翼を授け、女神の血は破滅を招く』」
その唄と今の話になんの関係性があるのだろうかと不思議に思っているところでハルトが教えてくれる。
「ミクモの涙、血を飲むと、飲んだ者に壮大なバフがかかるのです」
「バフが?」
「ええ。昔、ミクモが赤ん坊の頃に俺自身で試してみました。ある一定の量が必要ですが、涙を飲むと翼が生え、物凄いスピードで飛ぶことができたのです。血を飲むと、指で岩石を破壊するほどの怪力が身に付きました」
「それもミクモの中に女神ネフィラがいる影響ですか?」
「おそらく。そんな能力がミクモにあると知られるのはとても危険です」
なるほど。ハルトがなにを言いたいのかを理解することができた。
「強すぎるバフ効果を悪用する奴がいるかもしれない。女神ネフィラ復活を企む者もいるかもしれない。だから俺に三雲の護衛ってわけですか」
「仰る通りです」
「だったら、三雲を学園に通わせるのは危険過ぎるのではありませんか?」
「キョータ殿の言う通り、学園に通わせない方が良いと思ったのですが、学園に通った方がメリットは大きいと判断しました」
「そのメリットとは?」
「はい。城に留まり続ける方が危険です。一定の場所に留まるというのは、もしミクモの情報が漏れた時に狙われやすくなります。学園には身分を隠して入学させますので、周りの目を欺くことができます。学園には城とは違った特別なセキリュティもあります。教育といった面でも、未来の女王として、学問や戦闘技術、リーダーシップを学ぶ必要があります。これらは城の個別授業では身に付きません。これらを考慮して、ミクモには学園に通った方が良いと判断しました」
そう説明した後に、ハルトが苦笑いで最後に付け加える。
「本音としては、自分が引きニートだったから、その辛さを知っているので、ミクモにはちゃんと学校に行って欲しいってところですかね」
なんとも説得力のある父親の言葉に、俺は納得した。ま、納得できなくても、俺は転生召喚さてしまったんだから、彼等の言う事を聞くしかないんだけどな。
「わかりました。三雲は俺が責任を持って守ります」
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