第4話 もしかして若返っている!?

 ガルハートとの一騎討ちに勝った俺は、先程召喚されたセリオンド城の『召喚の間』から、ハルトの自室へと案内される。


 城なんてものは日本の城にしか行ったことがないもんで、こういう中世ヨーロッパ風の城の中を歩くのは初めてだ。


 白い大理石の床に金色の縁取りが施されており、どこか高級感がある。


 そんな廊下を、メイド服を着た人やら、ガルハートが着ていた鎧とは異なる鎧を着た兵士達とすれ違う。


 すれ違い様、みなが立ち止まってこちらへお辞儀をするもんだから、この二人は改めて王族なんだなぁと実感させられる。


 その時、一人のメイドと目が合った。プラチナの長い髪に青みがかった灰色のクールな瞳をしたメイドさんは、ぺこりと一礼してから仕事に戻った。


 ま、あっちからすると警察官の格好なんてのは異界の人間って感じなんだろうし、物珍しいわな。


「どうぞ、こちらが俺と家内の部屋なります。家内は席を外しておりますが、自分の部屋だと思ってごゆるりとしてください」


 ハルトはなんとも腰が低い王である。ガルハートには威厳のある態度を取っていたのだがな。俺が転生召喚した者だから警戒しているのだろうか。


「失礼します」


 人様の家、部屋に入るんだから礼儀は忘れず、断り入れてから入室する。


 ハルトとハルトの家内の部屋。つまり、王様と王妃様のプライベートルームってわけなもんで、粗相のないようにしないとな。


 なんて思いながらも、異世界の王様の部屋なんてものに興味がわかないわけがなく、ジロジロと人様の部屋の様子を見てしまう。


 木目調の壁には彫刻を施した柱が配置されており、異世界的な荘厳さを感じる。そこには剣が大事そうに飾られていた。


「あれは……」


 違和感があり、首を捻ってしまう。


 大理石で出来た床の中央には日本風の敷物を用いたカーペットが敷かれており、部屋の中央にはこたつがあった。


 冬に大活躍役の日本人大好きこたつ。まごうことなきジャパニーズこたつ。


「どうぞ、おかけになってください」


 ハルトが先にこたつへ入ると、続いて三雲もこたつに入る。二人の流れに続いて俺もこたつの中へと入った。


 うーん。ぬくぬくで心地が良い。このままみかんを食べてぐだぐだしたい気分になる。


 違和感なんてものはすぐに消えた。流石はジャパニーズこたつ。


「まずはガルハートの粗相をお許しください、キョータ殿」


 急に真面目な話を振られたちめ、ぐだぐだしたい気持ちをなんとか切り替えてから答える。


「全然大丈夫です。頭を上げてください」


 彼は素直に従い、申し訳なさそうに顔を上げた。


「ガルハートは以前から転生召喚に反対しておりました。何度説明をしても言うことを聞かずでして……今回、キョータ殿を転生召喚したことで八つ当たりという形でキョータ殿に絡んでしまったかと思われます」


 ガルハートの言葉から予測を立てると、自分が姫を守るから転生召喚なんて必要ないもん! って言うただのガキのわがままみたいなもんだろうな。


「ま、完膚なきまでに負けましたから、もうキョータ殿に絡んでくることもないでしょう」


 楽観的に言ってくれるが、王様よ。それは壮大なフラグだぞ。あの手の輩はすぅぐ報復に来やがるからな。警戒しておくとしよう。


「それでハルトさん。死んでしまった俺を三雲が転生召喚してこの世界へ呼び出したってのはわかったのですが、そこからの続きの説明をお願いしてもよろしいでしょうか」


「説明が途中でしたね。では、改めまして」


 ガルハートに邪魔されて聞けなかった重要な部分をハルトが説明してくれる。


「実は三雲の中には魔王がいるんです」


「ま、おう?」


 酒の銘柄の話ではない、よね。


「いや、正確には魔王ではなく女神なのですが、魔王と同じくらい恐ろしい奴でした」


 三雲の様子を伺うと、目が合って小さく頷いてくれた。転生召喚やチート技があるんだ。その話もまた真実なのだろう。


「実は俺も日本からの転生者なんです」


 ハルトの告白に少しばかり驚いてしまうが、そういえば発言がどことなく日本人っぽいところがあったな。古いネットスラングを使っていたところを見るに、それもまた真実なのだろう。


「俺は勇者という立場で、女神ネフィラによって異世界転生を果たしました。俺の使命は魔王ザルゴスを倒すことだったのです」


 なんともRPGゲームの物語を聞かされている気がしないでもないが、俺はゲームが好きだし、王道の話なのですんなりと理解できる。


「俺は仲間達と共に魔王ザルゴスを討ち取りました。しかし、真の敵は女神ネフィラだったのです」


 ここで女神ネフィラが裏ボスだった真実が発生か。うん。王道でわかりやすい。


「俺の能力スキルじゃ女神ネフィラには勝てませんでした。だから、女神ネフィラを封印することにしました」


「ハルトさんの能力スキルはなにかを封印する能力スキルなんですか?」


「いえ、俺の能力スキルはコピーです。キョータ殿と似ていますね」


 そういえばガルハートが戦っている時にそんな風なことを言っていた気がするな。


「俺はコピーの能力スキルで、どんなものでも封印できる能力スキルの人をコピーしました。それで女神ネフィラを封印しました」


 ハルトは唇を噛みしめて両眉をぎゅっと寄せて三雲の方を見る。


「誤算だったのは、封印する器にはそれに等しい器が必要なこと。女神ネフィラに等しい器は自分の生まれて来た娘でした。ミクモもまた日本からの転生者で、その魔力は生まれた時点で女神ネフィラに匹敵するほどでした」


 転生者の娘もまた転生者であったということか。それも三雲の能力もまた桁外れで生まれてきたと。


「俺は仕方なく、生まれて間もないミクモの中に女神ネフィラを封印しました。もし、ミクモが命を落とすと女神ネフィラが復活してしまいます」


 ふむ。


 ここまでの話をちょっとだけ整理すると、ハルトも三雲も俺と同じ転生者。ハルトはこの世界に女神ネフィラによって転生し、魔王ザルゴスを倒す指名を与えられた。しかし、真の敵は女神ネフィラであり、勝てないと察したハルトはネフィラを生まれて間もない三雲の中に封印した。三雲が死んでしまうと女神ネフィラが復活してしまうため、俺を転生召喚し、三雲を守って欲しいってことか。


 なんとなく俺を転生召喚したってことはわかったが。


「わざわざ転生召喚なんてしなくても、ハルトさんは勇者なんだし必要なかったのではないですか?」


「俺も全盛期ほどの力はありません。それに俺のコピーの能力スキルは今も発動し続けています。解除してしまうと女神ネフィラは復活してしまうでしょう。だから俺は万全の状態では戦えうことができません」


「そういう縛りがあるんですね」


「それに、ミクモにはこれからセリオンド王立学園に通ってもらわないといけないのです。護衛も兼ねてキョータ殿にはセリオンド王立学園に入学してもらいたいのです」


 なんともまぁカタカナな学園の名前に気を取られてしまい、話を少し聞いていなかったみたいだ。


「えっと、学園に、入学? 就職じゃなく?」


「入学です」


「待ってください。俺は30歳ですよ。こんなおっさんが学園に入学とか、クラスメイト達から白い目で見られてしまいます」


 またまた冗談を仰る。なんて感じで言うと、ハルトと三雲は互いの顔を見合わせて、もしかして気が付いてない? なんて顔をしている。


「京太くん。ご自身の顔を確認してください」


 三雲に言われて鏡を出されてしまう。


「んー?」


 そこに映った自分の顔をまじまじと見つめる。


「肌ツヤがえらい良い感じになっている気が……それに髭もないような……」


「京太くんは私と同じ15歳ですからね」


「え!? どういうこと!?」

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