第3話 これがアッパーコンパチブル
「粉微塵にしてやるぞ、クソガキ」
一騎討ちを申し出たガルハートと対峙する。先程から俺を子供扱いしているが、この世界では30歳などまだまだ子供ということなのだろうか。俺自身も大人になったという感覚ではないから、別にクソガキと言われてもカチンとすら来ない。
それにしたって、さっき死んだばかりだと言うのにこの急展開。初めての戦闘。
ただ、恐怖という感情は湧き上がってこない。これは警察学校時代から厳しい環境で育てられた影響か、はたまた、三雲から授かったチート能力による慢心か。
どちらにせよ、騎士団長を名乗るガルハートって奴に脅威を感じない。
こちとら戦闘経験はないが、幾つも修羅場乗り越えて来てんだよ。ヤーさんの方がよっぽど強そうで、こえーって話だ。
「こちらから行くぞ」
ガルハートは剣を胸に構えると、そのまま天に掲げるみたいに上空へ突き立てた。
すると、ガルハートの身体が黄金に光り輝く。なんだか先程よりも一層に威圧感があるように思える。
あ、前言撤回。ヤーさんより怖いかも……。
これが騎士団長ガルハートの
だったらその能力を頂くとしよう。
腰に携えた拳銃を取り出す。警察の訓練場では幾度となく使ったことがあるが、人に向けたことがないニューナンブM60を騎士団長に向けて構えた。
「ふっ。そんな異界の武器を構えたところで私には無意味だ」
ゲームや漫画の世界で使われていそうな剣を構えているくらいだ。拳銃なんて見たことがないのだろう。
初めての武器を見たことによる不安か、それとも圧倒的な自信が成せる言葉か。ガルハートの心意はわからないが、彼の言葉を無視して躊躇なく拳銃のトリガーを引いた。
バンッ!
弾は入っていないため、乾いた音が広間に響いただけである。
まるで運動会の徒競走のスタートの合図を皮切りに、「ははは!」とガルハートが大きく笑った。
「その武器はただ威嚇するだけの物か? くだらない。威嚇というのは、こうやるのだ!」
そうやって更に威圧感を高めてくるが、彼の言葉が俺には入って来なかった。
確かにこの拳銃には弾が入っていない。空砲だ。音しか鳴らない。しかし、手応えがあった。確実に相手の能力をコピーしたという手応えが。
確信を得て自らの脳天に拳銃を構える。
日本で撃ち抜かれた脳天を自ら撃ち抜こうとしている。
ちょっと怖い。勇気がいる。
だけど、この恐怖を乗り越えた先にある確かな
三雲の言葉を信じ、トリガーを引いた。
バンッ!
「私の威嚇に恐れを成して狂ったか、英雄。自らの武器で自分を攻撃するとは情けない。ハルト様。ミクモ様。こんなクソガキのザコ、やはりミクモ様の護衛なんてとんでもないですぞ。いや、この世界にいること自体が罪。弱過ぎるその重罪、私が咎めてあげましょうぞ」
ガタガタとほざく騎士団長の言葉なぞ脳裏には入って来なかった。
俺の脳裏を駆け巡るのは、騎士団長の
『ブレイブオーラ』
身体から放たれる黄金のオーラが全身を覆い、パワー、スピード、ディフェンスが数倍に上昇する。オーラが周囲を照らし、敵に圧力を与える。そのパワーは大地を揺らし、そのスピードは残像を残すほど速くなり、そのディフェンスはドラゴンの一撃にも耐えられる。
ちなみに、枝豆とエールがあれば生きていける。
瞬時に騎士団長の能力を理解することができた。いや、最後の情報はいらんけども。
どうやら、ただのバフスキルみたいだな。
しかし、単純だからこそ扱いやすい
俺はガルハートの真似をするように、拳銃を天に掲げてトリガーを引く。
『ブレイブオーラ』
バンッ!
乾いた音と共に俺の身体は黄金のオーラに包まれる。
脳内がクリアになり、身体が羽のように軽い。
「な、にっ!?」
ガルハートは信じられないものを目の当たりにしたようなリアクションを取る。
そりゃ自分の
「……ふっ。クソガキ。伊達に英雄を名乗るわけではないと言うことか」
そんな大層な名を名乗った覚えは全くないんだが。
「お前の
ガルハートが地面を蹴り、一直線に向かって剣を振りかざしてくる。
「なかろうがあああ!」
しかし、遅い。
ブレイブオーラを使用しているのに、騎士団長ガルハートの動きはノロマの亀よりも鈍足に見えてしまう。
いや、違う。
単純に俺の方が、パワーも、スピードも、ディフェンスも桁外れに上がっているだけだ。
これがアッパーコンパチブルの
相手の
腰に携えた警棒を構え、メジャーリーガーの気分でフルスイング。
「……なっ!?」
バギャッと鎧が砕ける感触が警棒を通じて手に感じることができる。
「ふっとべ」
「ば、かなあああああぁぁぁ!!」
弾丸ライナーでガルハートが吹っ飛んでいき、べギャっと壁にめり込んでしまった。それと同時に警棒は真っ二つに折れてしまった。
「バットを折りながらのソロホームランだ」
「だから野球脳が過ぎますよ」
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