第2話 元カノは守って欲しいらしい
「お久しぶりです。京太くん」
「三雲……」
俺の名前を呼んでいるということは、目の前にいる彼女は俺が大好きだった元カノの
だが、どうして目の前に三雲がいるんだ?
俺はさっき死んだはずじゃ……。
「突然のことで驚かれている心中は察しますが、説明させてください」
少し現状に混乱しているところで、40代くらいの男性が声をかけてくれる。
「まずは自己紹介から。俺の名前はハルト・イチジョウ・セリオンド。このセリオンド城の王です」
「城……? 王……?」
なんとも異世界ファンタジーな単語が出て来て、寝起きみたいな俺の頭じゃ理解が追いつかない。
「京太くん」
頭から?マークを連発して出しているところに、今度は三雲が話しかけてくる。
「唐突なことで頭が整理できていないと思いますが、お父様に引き続き私も改めて自己紹介をさせてください」
彼女は丁寧にスカートの裾をつまんで、高位の貴族みたいに可憐に挨拶をしてくれる。
「私はあなたの知っている柊三雲ですが、この世界での私の名前はミクモ・ヒイラギ・セリオンド。セリオンド城の王女です」
決してふざけているわけではないのだろうが、なんだかふざけた横文字の名前を語る三雲へ、お前はそんな異世界ファンタジーが好きなキャラじゃなかっただろうと声に出しそうになる。
「私にはチート能力があります。それは、『死んでしまったあなたをこの世界へチート能力を授けて転生召喚する』というものです。それで京太くんをこの世界へ転生召喚しました」
「チート、能力、転生、召喚……?」
なんだか小説や漫画でありそうな単語をズラリと並べてくる。
「……俺は一度死んじまって、三雲の転生召喚っていうのでこの世界に来た。って認識で、良い、のか?」
「その認識でよろしいかと思います」
脳天を撃ち抜かれて死んだのは確かだ。それが無傷になってこの場所にいるということは、三雲の言う事はウソではないのだろう。そもそも、俺にウソを言う理由が見つからない。
「三雲はこの世界で女神様なんか?」
「……少し違いますが……近いものがありますね」
難しい顔をしながら曖昧な答えを出されてしまう。どうやらそこら辺の問題は複雑なものらしい。
「そもそも、なんで俺を転生召喚したんだ?」
そりゃそんな質問もしたくなる。中学生の頃の元カレを召喚ってのはどういう了見なんだろうか。そりゃ俺は死の間際に三雲のことを思っていたけども、実際に死んだら三雲に会えたとあっちゃ、嬉しさよりも困惑が勝ってしまう。
「えっ!?」
こちらの質問に酷く驚いた声を上げる。
「それは、ですねぇ……ええっと……なんと言いますか……」
少々顔を赤らめて視線を逸らし、ごにょごにょと声にならない声を上げている。これにも複雑な理由があるみたいだな。わざわざ中学の元カレを召喚しているんだ。なにかのっぴきならない事情があるんだろう。
「京太殿」
あたふたと三雲の父親を名乗るハルトが、ごにょごにょしている娘の代わりと言わんばかりに俺の名前を呼んで説明してくれる。
「端的に申しますと、娘を、ミクモを守って欲しくて京太殿を転生召喚した次第です」
「三雲を守る?」
「はい。実はミクモには──」
バンッ!
ハルトが説明をしている最中に扉が勢い良く開くと、大男が現れた。
「ハルト様! これは一体……」
ずかずかと不機嫌に中に入ってくる大男が俺達の前までやって来る。
身長は175センチある俺よりも随分と高い。2メートルあるかないかほどの大きな身長。銀髪の短髪で、その顔付は軍人を思わせるほどにイカツイ。真っ赤な目は返り血でも浴びたのかと思えるほどに赤く染まっており、白銀の重厚な鎧の胸元にはハルトと同様に黄金の装飾が施されている。
「ガルハート……」
ハルトは俺に見せていた柔らかい表情を消し、険しい表情でガルハートと呼んだ大男を睨みつけた。
「神聖な召喚の間に土足で入るとはどういう了見だ?」
「ハッ! 申し訳ございません!」
ガルハートはすぐさま膝を付いて謝罪に入った。かと思ったが、すぐさま反抗するように口を動かした。
「しかし、お言葉ですがハルト様。ミクモ様の護衛は我々セリオンド騎士団にお任せくださいと申したではございませぬか。ハルト様は我々セリオンド騎士団の実力に不満があると申すのでしょうか?」
「お前達の実力は買っている。だが、お前達には他にも仕事があるために、ミクモの護衛だけを任せるわけにはいかないと何度も説明しただろうが」
「しかし……」
ガルハートが俺を思いっきり睨みつけてくる。
「大切な我等が姫君のミクモ様を、こんなどこの馬の骨かもわからぬ輩に任せるわけにはいきませぬ」
「はぁぁ……」
ハルトは大きくため息を吐いて、「なんでこの世界の奴等って頭でっかちしかいねぇんだよ。ort」と小さく本音を吐き出していた。この人ネットスラング吐いた。ちょっとネットスラングが古いけど。
「ガルハートさん」
ハルトがため息を吐いて呆れて物も言えない代わりに、今度は娘の三雲が彼に優しく話しかけた。
「私の召喚した英雄様の実力が信用できないと?」
口調そのものは優しいが、彼女の見つめる目に優しさというものはなかった。
「それは……」
姫君の言葉に一瞬口篭るガルハートだったが、真っ直ぐと三雲の目を見てはっきりと答えた。
「できませぬ。こんな子供にミクモ様の護衛などとんでもない」
子供? それは俺のことを言っているのだろうか。見たところ、俺とあんたは同世代だと思しき顔なんだが……。
「どうすれば信用していただけますか?」
三雲の質問に対し、ガルハートは立ち上がり、どこから出したのか、唐突に剣を出して、その刃先をこちらへと向けてくる。
「こやつと一騎討ちを申し出たい。この者が私に勝つことができれば、私は大人しく引き下がることにしましょうぞ」
彼の言葉を受け、三雲が視線でハルトに訴えかけると、「好きにしなさい」との許しを得た。
「わかりました」
おいおい。まだ全然この世界についての説明がないってのに、唐突に戦う感じになってるだけど。どうすんだよ。俺は警察官だけど戦闘なんてしたことないぞ。
「では早速と準備にかかります。そこのガキもさっさと準備に取りかかれ、ザコが……」
なんか恨みでもあるのか、イライラをぶつけるようにこちらに言い残し、ガルハートは一騎討ちをするために背を向けて間合いを取った。
その背中を納得のいかない様子で眺めていると、コソッと三雲が耳打ちしてくれる。
「説明の途中でこんなことになってしまい、申し訳ありません。この戦闘が終わったら、キチンと説明しますので、ここはガルハートさんにお付き合いお願いしてもよろしいですか?」
「俺はただの警察官だ。しかも巡査。いきなり一騎討ちをやれと言われても現場不足だぞ」
「それは大丈夫です。ガルハートさんなんて京太くんの敵じゃありませんよ」
「ほんまかいな。相手は騎士団長だろ」
「言ったでしょ? 私のチートは、『死んでしまったあなたをこの世界へチート能力を授けて転生召喚する』って」
「それってことは俺にもチート能力があるってこと?」
「はい。京太くんのチートは、『アッパーコンパチブル』という能力です」
「アッパースイング?」
「野球部だからって野球脳が過ぎません?」
あ、中学の時の俺の部活、覚えててくれたんだ。嬉しいかも。
「アッパーコンパチブル。上位互換です。この世界の人間には必ず
「……それ、チートが過ぎるじゃない?」
呆れた様子で尋ねると、胸を張って嬉しそうに言ってのける。
「まごうことなきチートです。だって対戦相手より確実に強くなってしまいますからね。えっへん。私、京太くんのために頑張りましたよ」
チート能力を授けるって言っていたから、このチートは三雲が考えて俺にくれたって意味なんだろうか。それにしたってチート中のチートで笑えてくる。
「やべぇチートを授けてくれてありがとよ」
小さく可愛いらしいピースサインで返答してくれる。こういうところは時が流れても、世界が変わっても変わらない。それがたまらなく嬉しく感じてしまう。
「アッパーコンパチブルの使い方は、京太くんの持っている拳銃で相手を撃って
「俺の死因知ってる? 脳天に弾丸をぶち抜かれたんだよ?」
「その死因を乗り越えて扱えるチートなんて、なんだか凄いロックじゃありません?」
「ロックが過ぎるだろ」
「昔、京太くんと行ったロックバンドのライブに影響されたんでしょうかねぇ」
「ロックバンドもびっくりのロック具合だな」
三雲から説明を受けていると、一騎討ちのために間合いを取っていたガルハートが剣をこちらに向けて不機嫌に言い放つ。
「おい! 英雄とやら! さっさと来い!」
チート能力を授かったからか、心に余裕ができ、初めての一騎討ちなのに平常心で騎士団長と向き合うことができる。
「粉微塵にしてやるぞ、クソガキ」
「縁起でもねぇや」
死んだばかりだってのに、また死んでたまるかってんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます