異世界でお姫様に転生した元カノが女神の能力を使って俺を転生召喚したんだが。どうやら元カノは俺に守って欲しいらしい
すずと
第1話 再会の元カノ
中学生の頃にあいつと付き合っていた日々が一番楽しかった。
あの頃、だなんて語れるほどまだ精神的に大人になっていない。昔は30歳なんておっさんと呼ばれる年齢だろうと思っていたが、実際に自分が30歳になると、精神年齢は中学生で止まったままと思える。だからなのかわからないけど、中学時代の頃というのを容易に思い出すことができる。
中学の卒業式にあいつにフラれた。死にたくなるくらいにショックだった。それくらい俺はあいつのことが好きだったんだ。それでも死ぬことはなくて、俺はちゃんと高校に通うことができた。
だが、その後の学生生活は、ほとんど死んでいるのと変わらないような毎日を過ごしてしまった。
あいつと過ごした日々が太陽のように眩し過ぎて、あいつと別れた後は陽が沈んだように暗い日々。
だが、いつまでもこのままじゃいけない。そう思い始めたのは大学三年の時だ。
きっかけは就職活動。
今までみたいに、中学の時は楽しかったと思い出に浸るだけの毎日では就職できない。
だから俺は行動を起こすことにした。
案外、行動してみると動けるものだなとこの時学んだ。
就職活動をしている時、自分が中学生の頃は警察官になりたかったことを思い出し、俺は警察官になった。
でも──
「警察官になんて、なるんじゃなかった……」
脳天を弾丸が通り抜けた後。頭から流れ出る血が、自分の中にこんなにあるのかと初めて知る。こんなにも悲惨な光景なのに痛みがない。脳天に弾丸をくらっても即死じゃなかったが、もう俺はだめなんだろう……。
まさか、普通の警察官の俺が抗争に巻き込まれてヘッドショットをくらうとはな。
さっきまで自分の人生を振り返っていたのは走馬灯みたいなものだろう。自分がもうすぐ死ぬんだってことが理解できちまって悲しい気分になる。あいつと別れた後、あんだけ死にたかったのに、いざ死を感じると死にたくないだなんて、人間は欲に飢えた生き物だって死の間際に悟っちまうよ。
「
「
耳元でおっさん臭い上司と、げじげじまゆげの同期が男臭い叫び声で俺の名前を呼んでくる。
そんなに叫ばなくても聞こえているんだよ。うっせーなぁ。汚い声で俺の名前を呼ぶんじゃねぇよ。今、もうすぐ死ぬ自分を振り返ってんだよ、くそが。
この令和の時代にパワハラモラハラ当たり前。ゲンコツなんていくらもらったことか。この上司のせいでやめたいと何度思ったことやら。くそ上司がっ。
この同期も自分の出世のために簡単に同期を蹴落とすゲス野郎だ。お前のせいで何人やめたと思ってんだ、くそぼけっ。
こんなくそ同僚達に囲まれて死ぬなんてな……ほんと、警察官になんてなるんじゃなかった。
それにしたって、俺は中学生の時にどうして警察官になんてなりたかったのだろうか。
「……み、く、も」
そうだ。
中学生の頃に付き合っていた彼女の三雲。大好きだった
彼女にはかっこいい自分を貫きたくて、かっこいい職業になることを宣言した。それが警察官だ。
そして、大人になったら結婚して幸せな家庭を築く。三雲と一生幸せに暮らす。子供は二人かな? 三人? 頑張って四人? だなんて楽しく将来を妄想していたっけ。
ふふっ。自分でも笑っちまうくらいにガキ臭くて、ピュアなこと語ってんな。
そんな夢も三雲があっさりと破っちまったもんな。
急だった。唐突で一方的な別れ……だった、よな……。
それでも、三雲と過ごした日々は今でも俺の人生で最高に幸せな日々であったと思える。
もう一度きみに会えたら……。
風が吹いた。なんだか懐かしくて切なく心地良い香りがする。
懐かしい……三雲の髪の香りだ。
もしかすると再会を示すものではないかと死後に期待してしまう。
俺はそんな香りに包まれて、この世を去った。
♢
「召喚が無事に成功しました」
「うむ。ご苦労であったな、ミクモ」
ふと聞こえてくる声にピクリと反応しちまう。
ミクモ? 今、三雲と言ったか?
「それにしてもミクモの召喚した人物が日本の警察官とはな」
「私も驚きです。まさか本当に警察官になっておられるとは思いもしませんでした」
男性と女性の会話が繰り広げられる中、ゆっくりと目を開けてみる。
視界がボヤけてはっきりと見えないが、目の前には白のドレスを着た人と、長いマントをしている人の姿がぼんやりと見えてくる。
パチパチと何回か瞬きをすると、徐々に視界がクリアになっていく。
警察官という言葉を耳にして自分の格好を見てみると、さっき脳天をぶち抜かれた時と同じ警察官の制服を着ていた。だが、傷跡もないし血も止まっている。腰にはちゃんと警棒と拳銃もある。
「こ、こは……?」
格好は警察官のままだが、なんとも非現実的な場所に立っていた。
天井は高く、荘厳な雰囲気を醸し出している広間。
足下には魔法陣のようなものが光っているのがわかる。
窓から差し込む太陽の光が、どこかこの部屋を神秘的に照らしていた。
目の前には大きな祭壇があり、その周囲を囲むように浮遊するクリスタルが回転してある。
なんだか現実味がなく胡散臭い場所だな、おい。
「おお。気が付いたみたいだ」
クリアになった視界より、改めて長いマントをしている人物を見る。
顔は40代くらいのイケメンの日本人。黒髪の短髪。顔のシワが良い感じにその人の人生をカッコよく表していた。所謂、良い年の取り方というやつだ。
異国のジャケットを羽織っており、肩や胸には黄金の装飾が施されている。ズボンはダークグレーで脚線が見える。ルビー色のロングマントをしており、明らかに日本人がするような格好ではない。
「気分はいかがでしょうか?」
女性の方がこちらを心配するような声をかけてくる。
ウェーブのかかった長めのスカート。繊細なレースで飾られたコルセット風のデザインの服。肘のあたりで広がるベルスリーブ。なんとも清楚と気品さを感じるが、これまた日本人がするような格好ではない。なにかの仮想なのだろうかと疑問に思いながら彼女の顔を見ると──
「み、くも?」
漆黒のストレートロングヘアはサラサラと綺麗で、窓から溢れた陽の光を浴びると柔らかく輝きを放っている。左側だけ控えめな編み込みがアクセントとして加えられている。
深い瑠璃色の瞳は冷静で落ち着いた印象を与える。
磨き抜かれた銅器のような肌は健康的で透明感があり、どこか儚げに見える。
身長は160センチないくらいか。女子の平均よりやや低い程度。
中学の時に大好きであった元カノの三雲にそっくりであった。いや、そっくりなんてもんじゃない。あの頃のままの三雲が目の前にいるかのようだ。
こちらが名前を呼ぶと、ニコッと首を傾げて微笑み返してくれる。
「お久しぶりです。京太くん」
優しく名前を呼んでくれる声色。微笑んだ笑顔。雰囲気。
間違いなく、目の前にいる女性は俺の大好きだった元カノの柊三雲であった。
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