第13話『月光の森で炎は踊る 前篇』全9Part

Part1


 ――ヒューーーーーー……ボボンッ!――


「――合図だっ」


「火球が二つ……その答えはっ」


 上空を見つめ、エドガーとアルメリアは顔を見合わせ。


「「対象を二つとも確認っ!!」」


 対象とは、敵と人質の有無。

 一つなら敵のみ確認、二つなら両方確認、三つならどちらも無し。

 人質だけということは考えにくいため除外した。

 エドガーとアルメリアは頷き合い、中央部……【月上間】の様子を見る。

 ザワリと変貌する雰囲気に、エドガーも喉をゴクリと鳴らし、アルメリアは腰に備えた双剣の柄をギュッと握った。




「なんだっ!!今の火の玉はっっ!」


「わ、わかりませんわっ!入口から見えた、火柱と同じか……それとも!」


 コランディルは混乱していた。

 岩陰で姿こそ確認できなかったが、この狼狽をみれば、あのアルメリアも冷静になれたかも知れない。幸いか、部下の二人はまだ冷静だった。

 マルスは冷静に火球の方角を判断し、それが敵によるものだと決断。

 コランディルを庇い立つように斧槍を構え、アルベールの首に刃を這わせる。


「……きっとエドが来たんだ。お前たちの犯行が、【召喚士】にバレたんだよ」


 息を荒くしながらも、鎖で縛られたアルベールはコランディルを見上げる。

 隣に縛られたメイリンは、心配そうにアルベールを見ていた。


「アルベールぅぅ!お前が呼んだのか……お前がぁ!」


「ぐあっ……!お、お前……何が、したいんだよっ……!!」


 コランディルはアルベールの胸ぐらを掴み、持ち上げようとする。

 鎖で縛られたアルベールの胴部がギギギ……と軋みを上げた。

 アルベールは、コランディルの言動の不可解さに困惑する。先ほど自分で言った、『【召喚士】が目的』だと言う言葉すら、アルベールが呼んだと怒りを見せるには不自然だ。


「コランディル様。奥から来たようだぜ……しかし、【召喚士】ではねぁなぁ。女だぜ、ありゃあ」


「……ほう」


 イグナリオ・オズエスの言葉に、コランディルはアルベールを乱暴に放す。

 そしてコランディル一味は、【召喚士】ではない訪問者に対峙する。

 赤く長い髪を風に靡かせ、赤き剣を持ったその見目麗しい女性に。


「……誰だ貴様は。その格好、貴族か……いや、違うな。この俺様が知らないわけがない。しかし場違いな服だ、ここをダンス会場とでも勘違いしているらしいぞ、お前たち」


「がははっ!どうせっちまうんだ、お楽しみも良いよなぁ!!オレぁそっちの平民の女より、ああいうバインバインの女が好みなんだよっ!!」


 下品な仕草をしながら、女性……ローザの胸を見るイグナリオ。

 揉みしだくような素振そぶりを見せ、ニヤケ顔でコランディルに言った。

 一方でマルスは、ローザの少し後ろに立つ少女に視線を向ける。


「コランディル様、あれ……アルベールの妹ですよ」


「確かに、エミリアだったか……お前等と同じ【従騎士】だったな」


「ああ。成績は万年二位で、兄貴と同じだったはずだぜ」


 同じ【従騎士】であるイグナリオとマルスは、エミリアを見て言った。

 騎士学校時代の成績がよく似ていた兄のアルベールと比較し、嘲笑うように。

 そしてその姿をようやく確認したアルベールとメイリンも。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る