Part4


 エドガーが懐から取り出した“石”は、ローザの召喚に使われた【消えない種火の紅玉インフェルノルビー】とは違う存在感を放っていた。


「……あれは、【封練石】!?」


 最前線まで迫った【石魔獣ガリュグス】を斬りながら、ローザはその変わった形状の“石”に目を向けた。

 エドガーが持ったそれは、綺麗に加工されているが特殊な形状だった。

 色は虹色に輝き、どんな宝石とも言えない色合いを見せ、歪な形は鋭角で、十二・・個の角が立っている。


「いきなりの本番で、上手くいくかはわからな――んぁ!!」


 ――ガバッ――


「エドぉぉ!」


 エドガーの右側に、涙目のエミリアが。


「ってエミリア!?い、今はちょっと!危ないから下がっ――」


 ――ガバリ――


「エドっっ!!」


 エドガーの左側に、焦ったアルメリアも。


「ア、アルメリアもぉぉ!?二人共、大丈夫だから離れ――」


『ギシャァァァァァァァァ!!』


 姉妹に挟まれるように抱きつかれたエドガーに、【石魔獣ガリュグス】が迫った。


「しまっっ!!」


 反応が遅れたエドガーの眼前に、魔物の顔が迫り、閉じていた一つ目が開かれる。

 エドガーは咄嗟に視線を逸らそうとしたが、しかしそこへ……熱気が。


 ――ゴゥゥ!!――


『ギシャッッ!』


 【石魔獣ガリュグス】の開いた瞳を、赤い何かが一閃した。


「ロ、ローザさん!すみませんっ!!」


「……早くしなさい、私だって無限に戦えるわけじゃないのよ?」


 ローザがこちらへ向けた手から、煙が上がっていた。

 【石魔獣ガリュグス】の開いた瞳を炎の刃が一閃し、魔物は痛みにのたうち回った。

 そしてローザは少しだけ、エドガーの両サイドに苛立った顔を見せるも、ローザは赤い剣を【石魔獣ガリュグス】へ突き立てる。


「す、すみません……」


「「ごめんなさい!!」」


 サッと二人が離れて、抱き合った。

 流石に、ローザの圧には逆らえなかったらしい。

 エドガーの説得よりも効力があるのは、エドガーとしては微妙な気分だが。


「き、気を取り直して……ローザさんが前線を押さえてくれているうちにっ!」


 一応姉妹を確認すると、今度はしっかりと我慢を見せてくれていた。

 恐怖は仕方ない。おとぎ話や逸話の魔物が目の前にいる、それがどれだけの異常事態なのか、二人が怯えるのは許容範囲だ。

 兄を助けたいと言う思いも、覚悟もあるのだろう……しかし、現実は無情だ。

 いきなり魔物への恐怖を拭えと言っても、この世界の人間には難しい。だからこそ、ここはエドガーがしっかりしなければ。


「――我求む!!契約に従いし賢魔よっ!」


 叫び、エドガーは虹の“石”……【封練石】を天に掲げる。

 同時に少しの魔力を注ぎ、その発動が始まった。


「エドガー・レオマリスの名において、我が求むは、戦場の勝利!その十二の魂集いて、我に永劫の約束を果たしたまえぇぇぇぇぇぇ!!」


 エドガーの手から離れた【封練石】は、宙に留まり発光する。

 “石”から発光する十二色の光は、それぞれ地面に到達すると魔法陣へと変化した。

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