Part3


 石の魔物を捉え、エドガーは少々大きな声で。


「いいかい二人共、あの【石魔獣ガリュグス】……油断した捕食対象を、瞳を開けて石にする。目を合わせなければ絶対に大丈夫だから、そこだけに注意していれば問題はない。スピードは遅いから、爪も牙も鋭いけど大したことよ。いいね、まずは観察して、勉強だっ!」


「エド……」

(エドは全然平気そう……どうして、そんなに冷静でいられるの?あたしは、なんでここまで怖いの……!)


「……」

わたくしはどうして、こんなにも情けない姿を……兄を助けるのも、本来はわたくしたちが率先しなければならないというのに)


 エドガーは姉妹の壁になるように立ち、二人はその影から見守る。

 そうしているうちに、ローザが飛び出していく。

 大きな声で、二人に教えるように言葉を掛けながら。


「いいわねキミたち!このバジ……じゃなくて【石魔獣ガリュグス】は、動きが極端に遅いわ!基本的に背後を取れば、その動きの遅さをカバーできない!」


 言いながら、ローザは跳躍し一体の【石魔獣ガリュグス】の背後に着地。

 そのまま――ブンッ!!と赤い剣を振るい、真っ二つに切断した。

 【石魔獣ガリュグス】は悲鳴を上げることなく絶命し、身体を爆散させる。


「――気をつけるのは瞳だけ。大量にいようとも、こちらの動きの方が何倍も早いんだから」


 駆けながら、ローザは【石魔獣ガリュグス】を数体斬る。

 全て一撃、瞳を開けさせることもなく、冷静に対処していた。

 時間もかからず、計六体の【石魔獣ガリュグス】は消滅。全て霧散し、元の【小魔石の欠片デコイ】となって地面に落ちる。


「こんなものよ。力を使うまでもなかったわね……」


 赤い剣をサッと振るい、戦闘終了を告げる。

 エドガーはパチパチと拍手をして、ローザのもとへ駆け寄った。姉妹も続くが、やはり顔色は優れない。


「お疲れ様です、ローザさん。これで反応は……」


「――いえ、まだのようよ」


 ローザがピクリと反応し、森の奥を見る。


「え……まさか、まだ?」


 ――カサッ――


「そうみたいですね、音が聞こえま――」


 ――ガサガサガサガサガサガサ――


 森の奥から、地面からも木々の間からも出現した【石魔獣ガリュグス】。

 その数は、視界を埋め尽くすような圧倒的な数。


「うわっ!なんだこの数……っ!」


「「!!」」


「結構な数じゃない。先遣隊ということかしら、魔物のくせに生意気じゃない……それに、魔力の反応も少なかったわ」


 ローザは剣を再び構えるが。


「ローザさん、流石にこの数はっ!二人も固まっちゃってますよっ!これは僕もキツいっ!ほら二人共、しっかりして!別に水場に出る虫じゃないからっ!!」


 姉妹二人は、その数の多さに絶句していた。

 思考停止しているのか、その集合体の恐怖に押し潰されている。


「ちょっ!二人共っ、移動を……!」


「キミがなんとかしなさい。時間は稼ぐから」


 ローザは剣を構える。

 唐突に無茶を強いられたエドガーは、口端をヒクつかせるも、姉妹の前に立ち。


「しょうがないな……魔力はまた貯めれば良いし、貴重な実践でもある、僕も気合を入れてっ」


 そうして懐から取り出したのは、綺麗に加工された――“石”だった。

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