Part9


 ――ゴォォォォォォォォォォォォォォッッ!!――


「わっ」


「きゃっ」


「凄い……」


 ローザが生み出した炎の柱は空を走り、一本の軌跡となってアーチを生み出す。

 まるで空を翔ける赤一色の柱は、きっと中央部にいるコランディルたちにも見えているだろう。


「さぁ、どう出るかしら?賢い相手なら……」


 そう言い、ローザは唇をぺろりと舐めた。

 着々と準備をする面々。そして数十秒後……ローザの期待に満ちた表情は一変する。


「……そう。そう来るのね」


 残念そうに、ローザは冷めた瞳で表情を暗くさせた。

 エドガーはそんなローザの隣に並び立ち、一言声を掛ける。


「ローザさん」


「なに?」


 少年はローザを見ることなく、森を見据えて。


「事が片付いたら、食事をご馳走します。この世界の食べ物が口に合うかはわかりませんし……高貴な出である貴女の舌を唸らせるかも、正直わかりません。でも……僕が暮らしたこの世界で、この国で、この都で過ごした15年の歴史を知って貰いたいから」


 ようやく、エドガーはローザを見た。

 茶髪の少年は、少しだけ震えていた。


「食事……そうね。楽しみだわ……」


 ローザは優しく笑みを浮かべる。

 寂しそうな表情と、心配するような表情。そのどちらとも取れる、年上の女性の笑みに、エドガーの力みが取れる。


「こんなこと、本当は頼める人間じゃありません……けど、僕個人には戦える力はない。誰かに頼って、誰かに戦わせる……それが正しいとは思いませんけど、それでも……これが僕だ。エドガー・レオマリスという、【召喚士】の力。貴女を召喚したことを、僕は誇りにしたい……我儘かも知れませんが、どうか。頼みます、大切な幼馴染を、救いたいんですっ!」


 道具に頼り、人に頼り、そしてそれを戦わせる【召喚士】。

 立派という言葉が相応しいのかと、エドガーは常に思っている。

 しかしながら、それを生業とし続ける覚悟は、疾うの昔に決まっている。

 だからこそ、ローザには伝えたかった。兄を救うために準備をする幼馴染には聞かれたくない、少年の本音を。


「……ふふっ。面白いわね、キミは。別に、戦わないから卑怯だとか、人に戦わせて情けないとか……そんなこと思わないわよ私は」


 ローザは、少し背の低い少年の頭に手を乗せた。

 良い子を褒めるように屈み、視線を会わせて続ける。


 ――ナデナデ――


「キミは、元の世界で私を救った。それは私が知っていれば良いだけ……この先にいる誰がどう言おうとも、それは意味がないことなのだから。決して、私はキミを裏切らない、見捨てない……絶対に離れない。絶望の淵にいた私を救ってくれたキミを、私だけは認めるから……ね?」


「……はいっ」


 少々気恥ずかしい思いだった。

 だけど、それはかつてエドガー少年が求めた、誰かに掛けられたかった言葉。

 必要とされたい、頼られたい。そんな思いを抱えたまま過ごした少年が、五年の月日を超えて得た……信頼。


「さぁ……私の初陣、見ていてね!」


 ローザは首元のチョーカーに触れ、炎を生み出し、それを凝固させる。

 その炎は紅蓮を形作り、見事なまでの一本の長剣となったのだった。

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