Part7


 【月光の森】に到着したエドガーたち四人は馬車から降りる。

 するとローザが不意に、森の方を見て目を細め、声を上げた。


「随分とお粗末な相手のようね」


「お粗末?いったい何が?」


 少々怒気の込められた言葉にも、エミリアは気にすることなくローザに問う。

 アルメリアは、妹の恐れ知らずな行動に口を開けるほどに呆れいているが、エドガーは笑っていた。そしてローザも、そんなエミリアに対して普通に受け答えする。


「森の中に、確かに【輝石】の反応があるの。でもね……普通は魔力を抑えるものなのよ。でもこの反応は、それを隠すわけでもなく、逆に誇示しているようなのよね……もしこれが、自分の力を見せつけたいだけのお間抜けさんなら、話にならないと思って」


「単に使い方がわからないだけかもじゃん?」


「……」


 ローザはエミリアの言葉に、目を見開いた。

 マジマジと、カナリーイエローの金髪の少女の顔を見る。まるで睨んでいるようにも取れるその行為に、エミリアは少し気恥ずかしそうに。

 実際は、ローザは自分に対して臆することなく発言するエミリアに感心しているのだが……。


「そ、そんなに見られたら照れるんだけど……」


 視線を逸らし、顔をほんの少し赤く染めて、何故か照れているエミリア。

 その様子を、人一倍他人に気を使う性格のアルメリアは、絶句の表情で見ていた。

 エドガーはそんなアルメリアの肩に手を置き、「しょうがない、エミィだから」。と昔の愛称で口にする。暗に、子供だからと言われているようなものでもある。


「でもそうね……その可能性は否定できないかな。私は、“石”は上手く扱えてこそ選ばれし存在・・・・・・だと思ってたから、盲点だったかも」


 【輝石】と言う物は、いわば神からの贈り物。

 天恵という、選ばれし存在しかたまわることのできない証明品なのだ。

 しかしローザは、それをまるで己の自己顕示欲を見せびらかす行為に思えて、憤りを感じていたのだ。しかしエミリアの発言に、改める。


「馬車の中でも少し話したけれど……私は、彼の思いに応じて召喚されたわ」


 そう言い、エドガーを見るローザ。

 エドガーは続けて。


「こんな切迫した状況で、こうしてローザさんが何も抵抗なく受け入れてくれているのは、【召喚士】と召喚者の繋がりがあるから……本当は、こんな不躾な態度を取っている僕たちは、とんでもない愚か者なのかも知れないね」


 我儘に、強引に、身勝手に、強制的に、そんなネガティブなワードを引き起こしているエドガーの異世界召喚という行為。

 本来の世界で、彼女なりの人生があったであろう生き様を……半ば割り込んで、ルートを変えさせたのだから。


「――だけど。私はそれで救われている」


 ローザは自分の首元に手を当て、大切な物を優しく触れるような仕草で擦る。

 それは……元の世界で失うはずだった、命の有難みだろう。


「それって……」


 アルメリアは察する。召喚される寸前に、彼女がどんな酷い扱いを受けていたのかを。そしてエドガーの異世界召喚が、彼女の命を救ったのだと。


「だから、私はキミに恩を返す。この胸の中に刻まれた契約は永久よ……私の命も身体も、この尊厳もキミのもの。召喚者は……そう言う存在なのだから」


 救われた命。本来の世界で失うだけの末路だった生を、こうして新しい世界で再生してくれたエドガーに対し、召喚者……ローザはその時点で誓っていた。

 全肯定、信者、沢山の呼び方があるだろうが……ある種の絆で繋がっていることだけは確かだ。

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