Part6


 死を覚悟したアルベール、しかし。


「――コランディル様!う、上をっ!!」


「あぁ?……なんだ、アレは……!」


 アルベールは不思議に思った。

 首を飛ばされると覚悟した途端、その悪意が終息したからだ。

 コランディルは上空を見上げているが、アルベールは縛られた大岩が邪魔で見えない。しかし理解できるのは、コランディルも部下の二人も、メイリンまでもがその空の光景を見て、不思議な光景を見たようにキョトンとしていることだ。


「コ、コランディル様……森の入口の方に、反応が!」


「こりゃあ、“石”の反応だぜ。オレたちの中にも、ビンビン来てやがるっ」


 部下の一人、イグナリオ・オズエスが胸を押さえて笑う。

 もう一人のマルス・ディプルは不安そうな顔をするが、コランディルは。


「キヒヒヒ……運が良いな、アルベール。これでお前は、もっと滑稽な死に至ることが決定したぞ」


「な……に?」


 コランディルは笑みを浮かべ、アルベールにそう言う。

 そして更に、メイリンを見て。


「おい、その女も縛り付けておけ。来るぞ……よくもまぁ、ノーヒントで俺様の行動に気付いたものだ」


「はい」


「――ちっ。お楽しみがよぉ」


 部下二人も、特にイグナリオは残念そうにメイリンを放す。

 マルスに連れられ、メイリンはアルベールの元へ。


「お前ら……っ!」


 コランディルはアルベールに目線を合わせてそう言うと、懐から何かを取り出す。

 片手一杯に掴まれたそれは、路傍に転がる小石のような、灰色の“石”だった。


「囀るなよアルベールぅぅ、来るんだぞ?お前を助けに。捕らわれのお姫様のアルベールちゃんをなぁぁぁ!だから、歓迎しようじゃないか。あの商人に大金を注ぎ込んだんだ……俺様の手足となって、やって見せろぉぉぉ!!」


 コランディルはその小石を盛大にばら撒いた。

 地面に落ちた無数の“石”……【小魔石の欠片デコイ】は、瞬時に地面に入り込み……そして。


 ――ボコ……ボコッ――


 地面から這い出るように、その姿が出現した。

 大凡おおよそ、自然界の動植物とは思えないゴツゴツとした石の皮膚。鋭い爪に尾、眼を持たない面のような顔。

 しかしその口は異常に大きく、四足歩行で歩く姿は、まるでおとぎ話の……。


「……ま、魔物……??」


 部下二人によってアルベールの隣に縛られたメイリンが、信じられない物を見たような声を出した。死への恐怖心と、しかし余りにも現実離れした光景に。

 それは、メイリンの言う通り……魔物。

 おとぎ話に登場する、悪魔や魔族に飼われる魔の生物。


 四足歩行の石の怪物……名は、【石魔獣ガリュグス】。

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