Part5
昨日とは何かが違うコランディルを見て、アルベールは恐怖の感情を覚えていた。
しかし必死にそれを抑え、コランディルに向けて口にする。
「お……お前、本当に……コランディル、なのか??」
その姿は昨夜と変わらず、プライドの高そうな貴族の青年のまま。
服装や容姿も変わらず、ロヴァルトの屋敷で変貌したイグナリオ・オズエスとも違う、至って普通だ。しかし……その空気感、雰囲気、それらは見るからに違う。
「勿論さぁアルベールゥゥ……俺様はさぁ、何時だってお前が憎い、憎くて憎くて、普段から煮え滾るような怒りで満ち溢れていたんだよぉ。だぁけぇどぉ……もういいんだよなぁ。お前はもう、俺様の障害じゃない……お前のような雑魚の
――バサァァァァッ!!――
「なっ……」
アルベールは突如、影に覆われた。
「貴様はもう眼中じゃないんだよぉぉぉ!俺様の障害は唯一人……あの小憎たらしいクソガキのぉ、俺様を舐め腐った【召喚士】なんだからなぁぁぁ!!」
背中から生え出た
恐怖を生み出す圧力に、アルベールは顔を青くするも、必死に思考を凝らした。
「ど、どうして昨日のことだけで……【召喚士】にそこまで悪意を持てるんだ!あいつはお前が執着するほどの男じゃない!平民であるメイリンや、あいつに関わるなっ、やるなら俺だけにしろ!!」
「ああ?」
自分で口にしていて、心底胸クソが悪くなるとアルベールは思った。
本当はわかっている……エドガーが国民から不出来と蔑まれる、ただの不遇職業の少年ではないことくらい。
しかしこの状況、自分やメイリンの状況に気づけば、きっとエドガーは駆け付けてくれるだろう。だからこそ、アルベールには思いがある。
「殺すならさっさと殺せっ!ただし……メイリンに手出しをしてみろ、お前たちは一生を後悔することになるぞっ」
「……貴様が死んだあとに、誰が俺様を後悔させると?もしや、あの【召喚士】とでも言うつもりかぁ!?」
「ああそうさ……きっと、あいつなら。【召喚士】、エドガー・レオマリスなら!」
情けなさと不甲斐なさで涙が溢れそうだった。
自分が守るつもりだった年下の幼馴染に。自分が出世して、国からの扱いを改善して貰おうと思っていた少年に。こんな状況下で、一生を付き纏うような責任を負わせるようにしてしまった。
自分はもう助からないだろうと、アルベールは決心していた……そう考えればこそ、今最優先にしなければならないのは、メイリンのことだけだ。
「――なら、今ここでその首をぉぉぉ……!」
アルベールの言葉に腹を立てたのか、コランディルの表情が変わる。
変貌は背中の翼だけだったのが、肌の血色を変え、筋肉を変え、骨格すらも変貌させていく。鋭く伸びた爪、メキメキと音を鳴らす指を……アルベールの首に伸ばす。
アルベールは覚悟した。抵抗をしようとしても、腕には力すら入らない……最愛の女性の前で無様に足掻いて死ぬこともさせてもらえず、その死を悟った。
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